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[医学部]修飾タンパク質が膜電位・Ca2+活性化K+チャネルの電位とCa2+の依存性を同時に制御する機構の解明

研究情報

概要

 電位依存性イオンチャネル(注1)には、生体中で修飾タンパク質と複合体を形成して機能するものが多数存在します。Slo1は膜電位と細胞内Ca2+濃度の2種類の要因に依存して活性化されるK+チャネルです。神経細胞などの興奮性細胞では、Slo1は膜電位と細胞内Ca2+濃度の変化に応答してK+を放出し、活動電位の再分極を促します。一方で、上皮分泌細胞などの非興奮性細胞では、Slo1は修飾タンパク質のLRRC26と複合体を形成します。その結果、Slo1-LRRC26複合体は、細胞内Ca2+非存在下でもK+を放出することができるようになります。しかしながら、LRRC26がどのようにSlo1と結合し、Slo1の膜電位とCa2+の依存性を制御しているのかについては不明でした。

  今回、本学医学部生理学講座統合生理学部門の中條浩一教授および糟谷豪助教は、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の濡木理教授らのグループとの共同研究のもと、Slo1-LRRC26複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡(注2)で決定することに成功しました。さらに、立体構造情報をもとに電気生理学的解析を行うことによって、LRRC26がSlo1の膜電位の依存性に関与する領域とCa2+の依存性に関与する領域の2箇所に直接結合することで、Slo1の持つ膜電位と細胞内Ca2+濃度の依存性を調節することを明らかにしました。本研究成果は、神経伝達や代謝異常の原因となるイオンチャネル複合体の機能理解の促進や、イオンチャネル複合体を標的とした治療薬の開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、2023年11月29日付けで米科学誌Molecular Cellにオンライン公開されました。

用語解説
(注1)電位依存性イオンチャネル
細胞の生体膜は脂質二重膜から構成させているため、イオンをほとんど透過しない。電位依存性イオンチャネルは生体膜にある膜貫通タンパク質であり、膜電位変化に依存してイオンを透過させる機能を持つ。1種類のイオンだけを選択的に透過させるチャネルもあれば、イオン選択性の低いチャネルもある。

(注2)クライオ電子顕微鏡
液体窒素(-196℃)冷却下でタンパク質などの生体分子に対して電子線を照射して像を拡大し、試料を観察するための装置。電子線の持つ波長は可視光線よりも短いため、光学顕微鏡では見ることが難しい原子レベルの大きさの試料を観測することが可能となる。タンパク質の立体構造を高分解能で決定する手法として、検出器などにおいて目覚ましい技術革新を遂げており、2017年に、その開発に貢献した海外の研究者3名にノーベル化学賞が贈られた。


その他

詳しくは以下のHPをご覧ください。