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[医学部]COVID-19パンデミックが認知症患者に与えた影響、死亡率の上昇と認知機能の低下、について発見

研究情報

 新型コロナ感染症 (COVID-19) は2019年12月に中国武漢で発生、2020年1月にパンデミックがWHOより宣言され、多くの人命が犠牲となり、今尚多くの人達に影響を与えています。新型コロナ感染症によるパンデミックの影響は大きく、社会構造も変化したと考えられます。多くの国民も、私達医療従事者も、パンデミックによる影響を肌では感じつつも、具体的な数字としてどれ程の影響があったのかを検証したデータは今尚少ない状況です。

 今回、神経内科学講座の松薗講師らのグループは、自治医科大学附属病院を含む栃木県内数施設の認知症研究データベースの結果から、新型コロナ感染症の発生後、認知症患者の死亡率が発生前よりも高く、認知機能は発生前よりも低下していたことを明らかにしました。研究は認知症を含む384人の神経疾患患者を対象に行われ、最短1年最長3年間のフォローアップ期間中、死亡した割合と認知機能評価検査 (MMSE, 改訂長谷川式簡易知能評価) の点数を評価しました (図)。その結果、パンデミック以前の群ではフォロー中の認知症患者の死亡率が5.3%であったのに対し、パンデミック以後の群では死亡率が18.5%と有意に高く、また1年後の認知症患者の認知機能評価検査点数もパンデミック以後の群では以前の群よりも統計学的有意に低下していました (MMSEで19.9 vs. 16.1、改訂長谷川式簡易知能評価で17.0 vs. 13.6、いずれも30点満点で平均値を記載)。パンデミック前後の群でベースライン、フォローアップ期間に有意差はなく、認知症以外の神経疾患患者では死亡率、認知機能共に統計学的な差は認めませんでした。

 本研究の結果からは、新型コロナ感染症のパンデミックの期間中、認知症患者の予後に悪影響が出ていた可能性が示唆されます。論文内でも述べられていますが、その要因は一つではなく、新型コロナ感染症そのものの感染が死亡率を上昇させた、医療や介護の社会環境が障害されたことによる間接的な結果として認知症患者の死亡率が上昇した、などの複数の要因が考えられます。いずれにせよ、認知症患者の生存期間や高次脳機能の維持には、社会的な人間関係や医療や介護を始めとする社会資源が大切であることが、本研究から改めて浮き彫りとなりました。今後の高齢社会における認知症患者への社会資源の重要性とパンデミックなどの緊急時に対する日本社会の課題として、本研究の結果を発信します。

 本研究成果は神経学の発展のための国際機関、世界神経学会連合 (World Federation of Neurology) の公式ジャーナル「Journal of Neurological Science」に2023年12月10日にOnline版として公開されました。

“Impact of COVID-19 pandemic on mortality and cognitive function of dementia patients: Tochigi Dementia Cohort Study”
DOI: 10.1016/j.jns.2023.122840.
https://www.jns-journal.com/article/S0022-510X(23)02302-X/fulltext