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[医学部]免疫抑制薬タクロリムスによる腎障害の原因を特定―オミクスとデータ駆動型研究〈応用〉―

研究情報

概要

 腎移植では手術後に免疫抑制薬を用いた拒絶反応の抑制が必要です。その中心的な役割を担うタクロリムスは急性拒絶反応の抑制に大きく貢献し、約9割の腎移植患者が内服しています。一方、タクロリムスを長年内服すると腎臓が線維化する状態になり(タクロリムス腎症)、移植した腎臓が廃絶する原因にもなっています。これまでに様々な研究が行われてきましたが、現在もその機序は分かっていません。

 臨床薬理学の西田翔医師(社会人大学院博士課程2年生)、相澤健一准教授らの研究チームは腎臓外科学の岩見大基教授らとの共同研究で、タクロリムス腎症を発症するモデルマウスを作成することに成功しました。さらに、メタボローム解析(注)を駆使することにより、このマウスではタクロリムスにより腎組織内でカルニチンが欠乏していることを突き止めました。

 カルニチンは生体内で脂質代謝に関わるβ酸化、ミトコンドリア保護、抗酸化といった作用を持ち、組織を健全に維持するために必要な生体物質です。本研究結果は、タクロリムス腎症の予防や治療薬開発につながり、移植腎患者の長期生存に寄与するものと期待されます。

 本研究の成果は国際科学雑誌Biomedicinesに掲載されました。


(注) メタボローム解析とは生物学的サンプル(細胞、組織、血液など)に含まれる代謝物(メタボライト)の全体像を評価することを目的とした分析手法です。メタボローム解析では、高度な質量分析技術(液体クロマトグラフィー三連四重極質量分析法や電気泳動フーリエ変換質量分析法など)を使用して、数百から数千種類ものメタボライトを同定し、それらの大規模な質量データの量やパターンの変化を評価します。これにより、生物学的サンプルの代謝プロファイルを網羅的に理解し、生物学的な状態、あるいは疾患のメカニズムを解明することが可能となります。

論文名、著者名など

論文タイトル: Metabolomic Profiling of Mice with Tacrolimus-Induced Nephrotoxicity: Carnitine Deficiency in Renal Tissue

著者: Sho Nishida, Tamaki Ishima, Natsuka Kimura, Daiki Iwami, Ryozo Nagai, Yasushi Imai and Kenichi Aizawa*
(*責任著者)

掲載誌:Biomedicines (Impact factor 4.7)
https://doi.org/10.3390/biomedicines12030521