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[大学]日本人脳内出血患者の発症前抗血栓療法の現状と急性期予後に与える影響

研究情報

概要

 自治医科大学 附属病院脳卒中センター田中亮太教授、同情報センター三重野牧子准教授らは順天堂大学と順天堂大学関連医療機関のグループと共同で日本人特発性脳内出血の発症前抗血栓療法の現状と急性期予後に与える影響について調査し、その解析結果がScientific Reports誌に掲載されました。

 脳内出血は脳卒中全体の約20%程度占める疾患ですが、発症前に抗血栓療法を受けていると血腫が拡大し予後不良な事が知られています。2011年にビタミンK拮抗薬(ワルファリン)に代わる直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が登場しました。DOACはワルファリンに比べ脳内出血含めた頭蓋内出血が少ない事が大規模臨床試験で示されていましたが、実臨床での成績は良く分かっていませんでした。

 研究チームは、2016年9月1日から2019年12月31日まで国内の5つの急性期医療機関に入院した特発性脳内出血急性期例を前向きに登録し、1,085例を解析しました。その結果、脳内出血患者の14.2%に抗血小板薬、8.1%に抗凝固薬、 1.8%に抗血小板薬と抗凝固薬の両者を服用中に発症していました。経口抗凝固薬の内訳はDOACが65.7%で、ワルファリンは34.3%とDOAC服用中が非常に多い事が分かりました。この結果は本邦においてワルファリンに代わりDOACが普及している現状を反映してると考えられました。

 ワルファリン服用は抗血栓薬を服用していない症例よりも入院中の死亡のリスクが約5.5倍高い事が示されましたが、抗血小板薬やDOACの服用ではこのような関連は認めませんでした。さらにワルファリンと抗血小板薬を併用しているとワルファリン単剤に対して約2倍院内死亡の割合が高くなりますが、DOACではこのような関連は認めませんでした。

 今回の研究成果から、DOACの内服は脳内出血患者の死亡予後に有意な影響は及ぼさない一方で、ワルファリンの服用、特にワルファリンと抗血小板薬の併用は院内死亡の強いリスク因子になることが明らかになりました。本研究成果が、抗血栓療法中患者の出血性合併症予防対策に繋がることが期待されます。

本研究成果は2024年5月25日Scientific Reports誌に発表されました。

論文名、著者名など

雑誌名:Scientific Reports(5月25日)

論文タイトル:Trends in prior antithrombotic medication and risk of in-hospital mortality after spontaneous intracerebral hemorrhage: J-ICH registry

著者:Hideaki Ueno#, Joji Tokugawa, Rikizo Saito, Kazuo Yamashiro, Satoshi Tsutsumi, Munetaka Yamamoto, Yuji Ueno, Makiko Mieno, Takuji Yamamoto, Makoto Hishii, Yukimasa Yasumoto, Chikashi Maruki, Akihide Kondo, Takao Urabe, Nobutaka Hattori, Hajime Arai, and Ryota Tanaka*
#: 筆頭著者
*: 責任著者

DOI : https://doi.org/10.1038/s41598-024-62717-5