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[大学]同種造血幹細胞移植前呼吸機能低下患者におけるドナーソースの臨床的意義

研究情報

同種造血幹細胞移植施行前の呼吸機能低下は移植後非再発死亡の予後不良因子として以前より知られてきました。また、移植前の呼吸機能が低下した患者さんは移植後に様々な肺合併症を起こしやすいことも報告されています。

一方、ドナーさんの移植細胞の採取方法として骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血がありますが、末梢血幹細胞移植は一部の肺合併症や非再発死亡のリスク因子であるとする報告もあります。そのため、特に移植前の呼吸機能低下症例において末梢血幹細胞移植を用いると非再発死亡や全生存率が悪化する可能性が考えられました。

自治医科大学総合医学第一講座(血液科) 大学院生の川村俊人、分子病態治療研究センター 領域融合治療研究部 教授の仲宗根秀樹を中心とした日本造血・免疫細胞療法学会(JSTCT)合併症ワーキングの研究グループは、JSTCT/JDCHCTが実施する「造血細胞移植と細胞治療の全国調査」によるレジストリデータを用いて大規模症例解析を行い、同種造血細胞移植前呼吸機能低下症例における至適ドナーソースについて検討を行いました。

研究チームは非再発死亡の予測モデルとして用いられるHematopoietic cell transplantation-specific comorbidity index (HCT-CI)における「中等度」「高度」の肺障害を有する症例(LS[Lung-Scored]コホート)とその他の症例(non-LSコホート)、それぞれにおいて、骨髄移植と末梢血幹細胞移植での生存成績の比較を行いました。その結果、LSコホートでは末梢血幹細胞移植が全生存(HR, 1.66; 95% CI, 1.09-2.54; P = 0.019)、非再発死亡(HR, 2.17; 95% CI, 1.16-4.05; P = 0.016)のリスク因子として同定されました。一方でnon-LSコホートでは末梢血幹細胞移植は全生存(HR, 0.92; 95% CI, 0.76-1.12; P = 0.41)、非再発死亡(HR, 0.81; 95% CI, 0.61-1.08; P = 0.16)の予後不良因子にはなりませんでした。LSコホートの死因を解析すると、末梢血幹細胞移植では肺合併症による死亡は増加しないものの、早期の感染症死が多く見られました。

呼吸機能が低下した患者さんについては末梢血幹細胞移植を避け、骨髄移植を選択することで良好な治療成績が期待できることが示唆され、この結果はドナー細胞ソースの選択に寄与するものであると考えられます。また、死因の解析から呼吸機能低下症例における感染への脆弱性の可能性も考えられ、呼吸機能低下症例特有の免疫環境の解明も今後期待されます。

この成果は、International Society for Cell & Gene Therapy (ISCT)official journalであるCytotherapy誌に掲載されました。

雑誌名:Cytotherapy
論文タイトル:Superiority of BM over PBSC for recipients with pre-transplant lung dysfunction in HLA-matched allogeneic HCT
著者:Kawamura S, Tamaki M, Konuma T, Onizuka M, Sakaida E, Hayashi H, Doki N, Nishida T, Sawa M, Ohigashi H, Fukuda T, Ishikawa J, Matsuoka KI, Kawakita T, Tanaka M, Ishimaru F, Ichinohe T, Atsuta Y, Kanda Y, Yakushijin K, Kanda J, Nakasone H
DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.jcyt.2024.06.006