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[医学部]ファージtRNAによる細菌の抗ウイルス防御を打破する新たな殺菌メカニズムの発見

研究情報

概要

 細菌は地球上で最も繁栄している生物の一つですが、「ファージ」と呼ばれるウイルスに感染します。ファージは細菌内で増殖し、最終的にその細菌を死滅させることがあります。細菌とファージの戦いは、長い進化の歴史の中で繰り広げられており、細菌はファージに対抗するためにさまざまな防御システムを発展させてきました。その一つが「レトロン」と呼ばれる防御システムです。

 本論文では、レトロンの一つであるretron-Eco7が、ファージ感染を感知するとエフェクタータンパク質を活性化し、細菌内のtRNA-Tyrを分解してファージの増殖を阻止することが明らかになりました。しかし、ファージもtRNA-Tyrを大量に産生することで、このレトロンの攻撃を回避する戦略を身につけていることがわかりました。

 さらに、ファージがtRNAを利用して細菌の防御システムを回避する戦術は、レトロン以外のシステム(PrrC防御システム)でも確認されました。このことから、ファージが細菌の防御システムを突破するためにtRNAを活用していることが示唆されます。tRNAは通常、タンパク質合成に不可欠な分子ですが、細菌とファージの進化的な戦いにおいて、新たな役割を担っていることが明らかになりました。

 この研究により、細菌とファージの共進化における高度な戦略の一つを解明することができました。また、この知見は新しい抗菌薬や細菌感染症に対する革新的な治療法の開発につながる可能性があります。たとえば、tRNAを搭載したファージを使うことで、細菌感染症に対するより効果的な治療法が実現する可能性があります。

用語解説

  • ファージ:バクテリオファージの略。細菌に感染し、内部で増殖するウイルス。抗菌治療への応用が期待されている。
  • tRNA:トランスファーRNA。細胞内でタンパク質合成のためにアミノ酸を運搬するRNA分子。
  • tRNA-Tyr:チロシン(Tyr)というアミノ酸を特異的に運搬するトランスファーRNA(tRNA)。
  • レトロン:細菌ゲノムに存在する遺伝子要素で、逆転写酵素をコードし、小さな一本鎖DNAを合成する。ファージに対する防御システムであることが知られる。

論文名、著者名など

論文タイトル: Evasion of antiviral bacterial immunity by phage tRNAs

著者:Aa Haeruman Azam, Kohei Kondo, Kotaro Chihara, Tomohiro Nakamura, Shinjiro Ojima, Wenhan Nie, Azumi Tamura, Wakana Yamashita, Yo Sugawara, Motoyuki Sugai, Longzhu Cui, Yoshimasa Takahashi, Koichi Watashi, and Kotaro Kiga

掲載誌:Nature Communications (multidisciplinary, open access journal, with 14.7 Impact Factor)

DOI:10.1038/S41467-024-53789-Y

その他

その他

1) 自治医科大学 医学部 感染・免疫学講座 細菌学部門
教授 崔 龍洙(さい りゅうしゅ)
E-mail: longzhu@jichi.ac.jp
http://www.jichi.ac.jp/bacteriology

2) 自治医科大学 医学部 感染・免疫学講座 細菌学部門
客員教授 氣駕 恒太朗(きが こうたろう)
国立感染症研究所 治療薬・ワクチン開発研究センター
室長 氣駕 恒太朗(きが こうたろう)
TEL: 03-5285-1111, FAX: 03-5285-1150
E-mail: k-kiga@niid.go.jp
https://researchmap.jp/kotarokiga

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