ニュース&トピックス
News & Topics
[医学部]細菌学部門の崔龍洙教授の研究がCRISPR Medicine Newsで紹介されました
研究情報
細菌学部門の崔龍洙教授の研究がCRISPR Medicine Newsで紹介されました。
概要
バクテリオファージ療法は、抗菌薬耐性を持つ細菌感染症の治療において有望な手法として注目されています。バクテリオファージ(ファージ)は、地球上で最も豊富な微生物であり、高い宿主特異性を有しつつ動物細胞を感染させないため、標的細菌を破壊する一方で、他の細菌叢には影響を与えないという利点があります。
近年、CRISPR技術の発展により、ファージは特定の病原菌を効率的に殺菌する「精密な殺菌マシン」として設計可能になりました。しかし、臨床応用への取り組みは多くの課題に直面しており、現在までにヒトでの使用が承認されたファージ製剤は存在していません。
こうした背景の中、自治医科大学の崔龍洙(Longzhu Cui)教授らは、この課題を克服するための研究を10年以上にわたり進めてきました。同教授らが『Communications Biology』誌に発表した研究では、これまでのファージ療法の限界を超える新たなアプローチが提案されています。本研究では、CRISPR-Cas13aシステムを運搬する非増殖型ファージを作製するため、ファージミッドをパッケージングシステムとして採用しました。このシステムは、特定の耐性遺伝子(mecA)を標的にしてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を選択的に除去できることを示しました。
本手法は野生型ファージに伴う生物学的リスクを回避し、他の細菌株に影響を与えないことが確認されています。さらに、生物封じ込めを強化したファージベースの抗菌剤開発において、新たな創薬の可能性を示す先例となりました。崔教授は、これまでファージ療法の普及が進まなかった原因として、安全性に関する懸念や製薬企業からの投資不足を挙げつつも、この研究が耐性菌に対する治療法として重要な一歩になると確信しています。今後もさらなる改良と臨床応用に向けた研究を続ける方針を示しています。