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[医学部]日本人脳出血患者の発症前未治療高血圧と血圧コントロール状況の詳細を報告
研究情報
自治医科大学 附属病院脳卒中センター田中亮太教授、同脳神経外科川合謙介教授、同脳神経内科藤本茂教授、同循環器内科苅尾七臣教授らは栃木県内の急性期医療機関と共同で日本人特発性脳出血の発症前高血圧治療状況について前向きに調査し、その解析結果がHypertension Research誌に掲載されました。
脳出血は脳卒中全体の約20%程度占める疾患ですが、脳梗塞に比べ科学的に証明された急性期治療が少なく、未だ予後不良の疾患です。脳出血の最大のリスクは高血圧ですが、急性期の現場では脳出血発症前に高血圧が治療されていない、あるいは治療されていても適切に血圧が管理されていない患者が多い事が指摘されていました。しかしながらこのような現状を詳細に調査した日本人患者の報告はこれまでありませんでした。
研究チームは2019年8月から2022年6月まで栃木県内の6つの急性期医療機関に緊急入院した特発性脳出血患者の発症前の血圧治療状況について前向きに調査し、365例を解析しました。登録された患者の高血圧の既往は74%でしたが、発症前に高血圧の治療を受けていなかった未治療高血圧は全患者の54.2%に認めました。発症前未治療高血圧の割合は年齢が若い程高く、50歳未満では79%が未治療高血圧でしたが、80歳以上の症例でも31%が未治療高血圧でした。男性患者は女性患者に比べ、発症前に自身の血圧が高かった事を認識している割合(男性78.3%、女性49.3%)が高いのに対し、女性では脳出血を発症して高血圧を指摘されるまで自身の血圧が高いことを知らない割合(男性14.0%、女性31.9%)が高く、これら傾向は若年ほどより顕著でした。未治療高血圧群では、若年例の喫煙率が高く、健診の受診率も低い傾向が認められました。
一方、高血圧治療を受けていた患者(全体の41.6%)の血圧コントロール状況に関して調査したところ、診察室血圧が収縮期140mmHg未満を達成出来ていた患者の割合は28.9%に過ぎず、40.1%はコントロール不良でした。コントロール不良の割合は若年ほど高く、また血圧管理目標値が収縮期血圧130mmHg未満であった患者の目標達成率は、どの年齢層でも20%以下という結果でした。
登録された患者の死亡退院は、高血圧がない、あるいは60歳未満で治療中高血圧の患者では認めませんでしたが、未治療高血圧では治療中高血圧より死亡退院の割合が70歳未満の患者で高いことは分かりました。
今回の調査結果から、日本人脳出血患者における発症前未治療高血圧、コントロール不良高血圧のリアルワールドの現状が明らかになりました。年齢や性別によって、血圧治療に関わる背景が異なる事が示され、今後の予防対策にも重要な知見が得られました。特発性脳出血では、血圧の厳格治療による1次予防の重要性が改めて示された結果で。本研究成果が今後の戦略的脳卒中予防対策に繋がることが期待されます。
本研究成果は2025年1月10日にHypertension Research誌に掲載されました。
論文情報
掲載誌:Hypertension Research (1月10日)
タイトル:Untreated and uncontrolled hypertension in Japanese patients with spontaneous intracerebral hemorrhage.
著者: Tadashi Ozawa# , Hiroko Suzuki, Takahiro Miyata, Tomoaki Kameda, Takashi Kobari, Masayuki Tetsuka, Fumihiro Arai, Keisuke Ohtani, Takahiro Miyawaki, Mutsumi Nagai, Masaaki Hashimoto, Takeshi Fujiwara, Kazuomi Kario, Kensuke Kawai, Shigeru Fujimoto, and Ryota Tanaka*.
#: 筆頭著者
*: 責任著者