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同種造血幹細胞移植におけるドナー危険因子(年齢、HLAミスマッチ)が移植成績に与える影響と、ドナーサイトメガロウイルス抗体の関連

　非血縁者からの同種造血幹細胞移植では、ドナーさんの年齢が高齢であることと、ヒト白血球抗原(HLA)の不一致が予後不良因子として知られています。
また、健常者におけるサイトメガロウイルス(CMV)の感染既往が免疫系に影響を与えることが報告されています。例えば、CMV感染既往がある場合、老化免疫細胞が増加し、かつ、加齢とともにその傾向が強まることが報告されています。この点に着目すると、非血縁者間同種移植におけるドナーさんの年齢やHLA一致度の移植成績への影響が、ドナーさんのCMV感染既往(抗体の有無)によって変化する可能性が考えられました。

　自治医科大学総合医学第一講座（血液科） 大学院生の川村俊人、分子病態治療研究センター 領域融合治療研究部 教授の仲宗根秀樹を中心とした日本造血・免疫細胞療法学会（JSTCT）合併症ワーキンググループは、JSTCT/JDCHCTが実施する「造血細胞移植と細胞治療の全国調査」によるレジストリデータを用いて大規模症例解析を行い、非血縁者間同種造血幹細胞移植におけるドナー危険因子(年齢、HLAミスマッチ)が移植後成績に与える影響がドナーCMV抗体の有無によってどのように変化するか、検討を行いました。

　研究チームは全体のコホートをドナーCMV抗体陽性(CMV-Donor Positive: CMV-DPコホート)、陰性(CMV-Donor Negative: CMV-DNコホート)の2つのコホートに分類し、さらにドナー年齢(40歳以上, 40歳未満)、HLA一致度(8/8, 7/8)に応じて4グループに層別し(Young88, Old88, Young78, Old78)、各コホートにおける、4グループの移植後の生存成績を比較しました。
その結果、CMV-DPコホートでは、高齢ドナー、HLAミスマッチドナーのグループで5年全生存率が有意に低下しました(57.3% in the Young88 group, 49.7% in the Old88 group, 50.7% in the Young78 group, and 47.3% in the Old78 group; P < 0.001)。一方で、CMV-DNコホートでは4グループの5年生存率に有意差が見られませんでした(50.5% in the Young88 group, 52.2% in the Old88 group, 52.5% in the Young78 group, and 53.2% in the Old78 group; P = 0.93)。多変量解析でもCMV-DPコホートではYoung88群と比較し、危険因子を有する3群が全生存のリスク因子として同定されましたが(HR of Old88 1.20, [95% CI, 1.04-1.39], P = 0.012; HR of Young78 1.35, [95% CI, 1.15-1.59], P < 0.001; HR of Old78 1.60, [95% CI, 1.37-1.87], P < 0.001)、CMV-DNコホートではこれら3群とも有意なリスク因子として同定されませんでした(HR of Old88 1.07, [95% CI, 0.92-1.24], P = 0.41; HR of Young78 1.11, [95% CI, 0.95-1.30], P = 0.20; HR of Old78 1.11, [95% CI, 0.93-1.32], P = 0.25)。さらにOld78群が生存に与える影響については、ドナーCMV抗体との交互作用が認められました(P = 0.002)。これらの結果から、高齢、HLAミスマッチドナーが移植成績に与える負の影響はドナーCMV抗体が陽性の場合に特に強く認められることが示されました。

　これまで非血縁者間同種造血幹細胞移植のドナーさんの選択においては、高齢のドナーさんやHLAミスマッチドナーさんについては、優先順位が低いと考えられてきましたが、ドナーさんのCMV抗体が陰性の場合は、このようなドナーさんも患者さんの予後を悪化させることなく、選択可能であることが示唆されました。一方で、移植後の患者さんの免疫環境とCMVやドナーさんの年齢、HLA適合度の関連については未解明な点も多く、今後基礎研究による解明も期待されます。

　この成果は、英文科学雑誌のBlood advances誌に掲載されました。

論文情報

掲載誌：Blood advances
タイトル：Impacts of donor age and HLA mismatch on HCT outcomes differ according to the donor CMV serostatus in unrelated allo-HCT
著者： Shunto Kawamura, Daishi Nakagawa, Takashi Nagayama, Yuta Katayama, Noriko Doki, Wataru Takeda, Tetsuya Nishida, Ken-ichi Matsuoka, Takashi Ikeda, Hiroyuki Ohigashi, Masashi Sawa, Kentaro Fukushima, Junya Kanda, Kentaro Serizawa, Makoto Onizuka, Takahiro Fukuda, Yoshiko Atsuta, Yoshinobu Kanda, Hideki Nakasone
DOI: 10.1182/bloodadvances.2024014408