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[医学部]多発性骨髄腫に対する新規治療薬の発見について
研究情報
多発性骨髄腫(MM)は、抗体を産生する形質細胞が腫瘍化した予後不良な造血器腫瘍です。高齢者に好発するため、超高齢化社会が到来する本邦において、今後、医療ニーズ増大が予想されています。MM治療には、近年、抗体薬など複数の新規治療薬が認可され、その予後は大幅に改善されています。しかしながら、予後不良染色体異常を有する症例の多くは既存薬に耐性を獲得し再発に至るため、依然、その予後は不良なままです。このうちt(4;14)転座は、2番目に多く検出される予後不良染色体異常です。転座に伴って発現が亢進するヒストンメチル化酵素NSD2が耐性獲得に働くため、有効な治療標的とされていました。しかしながら、NSD2阻害剤の開発と臨床応用は進んでいませんでした。
今回、分子病態治療研究センター領域融合治療研究部の大学院生松岡紗恵医師、仲宗根秀樹教授、古川雄祐客員教授らは、理化学研究所(理研)梅原崇史ユニットリーダー(現・立命館大学薬学部教授)らとの共同研究により新規NSD2阻害剤を見出し、その有効性を前臨床試験により明らかにしました。
本研究では、理研と東京大学が有する低分子阻害剤ライブラリーにある56291種類の低分子化合物を用いて、これまでで最大規模のハイスループットスクリーニングによりNSD2阻害剤を探索しました。その結果、新規の構造を有しNSD2に対する高い特異性と阻害効果を示した化合物としてRK-0080552(RK-552)を見出しました。RK-552はt(4;14)転座を有するMM細胞に対する高い殺細胞効果を示し、マウスモデルにおいても重篤な副作用なしに有意な生存期間延長効果が得られました。今後、実臨床における有効性と安全性の検証が進めば、t(4;14)転座を有するMMの大幅な予後改善効果が期待できます。
本研究はMMの予後改善に結びつく重要な発見であり、アンメットニーズとなっているt(4;14)転座を有するMM患者と共に、今後の医療ニーズ増大が懸念される本邦にとっても大きな福音となるものです。
本研究成果は2025年3月11日、血液学系雑誌で最も著名な米国血液学会誌「Blood Neoplasia」誌オンライン版に掲載されました。
論文情報
Matsuoka S, Osada N, Kubota H, Kikuzato K, Koyama H, Sonoda T, Idei A, Yoshida M, Kikuchi M, Umehara T, Watanabe C, Honnma T, Yasui H, Ikeda S, Takahashi N, Nakasone H, Kikuchi J, and Furukawa Y. Discovery of a novel class NSD2 inhibitor for multiple myeloma with t(4;14)+.
Blood Neoplasia. available online 11 March. 2025, 100091.
https://doi.org/10.1016/j.bneo.2025.100091