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[医学部]同種造血幹細胞移植前の肝臓合併症がどのような悪影響を及ぼすかを明らかに
研究情報
同種造血幹細胞移植は血液疾患を治癒する可能性のある治療として進歩してきましたが、今もなお、死亡のリスクとなる様々な合併症に苦しむ患者さんがいます。
そこで移植医は移植前の併存症をリスク因子としてスコアリングし(HCT-CI)、それをもとに移植のリスクを推定します。例えば肝臓の併存症としてはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス感染症、AST、ALT、ビリルビンの数値によって分類されます。しかし、肝臓併存症が存在することで同種移植にどのような悪影響が及ぼされるのか、その詳細についての報告は今までにあまりありませんでした。
自治医科大学総合医学第一講座(血液科)/分子病態治療研究センター 領域融合治療研究部の三﨑柚季子(大学院生)、仲宗根秀樹(教授)を中心とした日本造血・免疫細胞療法学会(JSTCT)合併症ワーキングの研究グループは、JSTCT/JDCHCTが実施する「造血細胞移植と細胞治療の全国調査」によるレジストリデータを用いて大規模症例解析を行い、移植前肝臓併存症が移植成績に与える影響について検討しました。
研究チームは、2010年から2020年の間に、初回の同種移植を受け日本造血幹細胞移植データベースに登録された初回の同種移植患者を対象に解析しました。移植前肝臓併存症(HCT-CI liver)とその他の併存症(HCT-CI other)の有無に応じて、4群の組み合わせに分けて解析しました。具体的な群分けとしては、移植前にいずれの併存症がない群【HCT-CI liver(-) other(-)】、肝臓併存症のみの群【HCT- CI liver(+) other(-)】、 その他の併存症のみの群【 HCT- CI liver(-) other(+)】、そして肝臓およびその他の併存症をいずれも有していた群【 HCT- CI liver(+) other(+)】になります。5年の全生存率はHCT- CI liver(+) other(+)で他の3グループに比較して有意に低い結果となりました(HCT- CI liver(+) other(+):49.9%、HCT- CI liver(-) other(+):59.0% , HCT- CI liver(+) other(-):66.5%, HCT-CI liver(-) other(-):68.3%、P<0.001 )。
多変量解析でもHCT- CI liver(+) other(+)群(HR 1.62, p < 0.001)とHCT- CI liver(-) other(+)群 (HR 1.21, P < 0.001)は、生存に有意に悪影響を与える結果となりました。同様に、非再発死亡についても、HCT- CI liver(+) other(+)群(HR 1.89, p < 0.001)とHCT- CI liver(-) other(+)群(HR 1.26, p < 0.001)は非再発死亡のリスク因子となりました。一方で、HCT- CI liver(+) other(-)群は全生存と非再発死亡のいずれにおいても、HCT-CI liver(-) other(-)群と有意な違いを認めず、移植前の肝臓併存症の存在のみでは、移植後アウトカムに大きな影響を与えないことが分かりました。
これは、HCT-CI other (-)のコホートだけに着目したサブ解析【HCT-CI liver(+)other(-) vs. HCT-CI liver(-)other(-)】でも、HCT-CI liverの存在のみでは生存 (HR 1.06, p=0.4)、非再発死亡(HR 1.07, P=0.45)に影響を与えないことを確認いたしました。
一方で、HCT-CI other(+)のコホートだけに着目したサブ解析【HCT-CI liver(+)other(+) vs. HCT-CI liver(-)other(+)】を実施すると、HCT-CI liverの存在が、全生存(HR 1.33, P<0.001)および非再発死亡(HR 1.49, P<0.001)に有意に悪影響を与えることがわかりました。特に、血小板回復遅延と肝臓の急性GVHD発症にHCT-CI liverの存在が関連することが指摘されました。さらに、死因の比較をした際に、HCT-CI liver(+) other(+)群では生着不全、致死的な感染症、致死的な肝障害の割合が他群に比べて多い傾向がありました。
このことは、移植前に肝臓併存症があるのみでは、移植後アウトカムに大きな影響は与えづらいものの、その他併存症がある中で肝臓併存症を有してしまうと、悪影響が顕著に出現することを示しており、特に血小板回復遅延や感染症により留意する必要性が分かりました。この知見は、移植適応や移植後の管理において重要なメッセージとなります。
この成果は、American Journal of Hematology誌に受理されました。
論文情報
雑誌名:American Journal of Hematology
論文タイトル:Adverse Impact of Pre- Transplant Liver Dysfunction in Allogeneic Hematopoietic Cell Transplantation
著者:Yukiko Misaki, Masaharu Tamaki, Ryu Yanagisawa, Noriko Doki, Naoyuki Uchida,5 Masatsugu Tanaka, Tetsuya Nishida, Masashi Sawa, Yuta Hasegawa, Shuichi Ota, Makoto Onizuka, Sakata-Yanagimoto Mamiko, Yuta Katayama, Noboru Asada, Junya Kanda, Takahiro Fukuda, Yoshiko Atsuta, Yoshinobu Kanda, Kimikazu Yakushijin, Hideki Nakasone
DOI: 10.1002/ajh.27652