医学部 School of Medicine

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「忘他利己」(もうたりこ)でもいいんじゃない?

荒木祐樹

六合温泉医療センター(群馬35期)

荒木祐樹 群馬県

群馬35期の荒木と申します。けしからんタイトルだ、と思う方もいるかと思います。当方は卒後7年目で、平昌五輪で五輪初勝利をおさめた女子アイスホッケーになぞらえるなら、義務年限の第3ピリオドに入ったところです。へき地勤務の真っ最中ですが、働いていて思うことがあり、今回筆を取りました。
私が提案する「忘他利己」は、もちろん「忘己利他」をパクった言葉であります。当施設にも、初代学長中尾喜久先生の書かれたこの四字が掲示されており、見るたびに身が引き締まる思いです(写真)。忘己利他という言葉は、「己を忘れ、他を利する」ことを説いた、まさに自治医大マインドを一言で凝縮したような素晴らしい言葉です。対して、「忘他利己」は、「他の存在を忘れるくらいに、自らに利すること、言うなれば自分が面白いと思えることに打ち込む」といったニュアンスです。

これだけ読むと、やっぱり自分のことしか考えていないじゃないか、といった印象も持たれるかもしれません。しかし続きがあり、私が主張したいこととしては、「転じて、それによって、他の人や地域のためになれたら素晴らしいじゃないか」ということです。
先生方は、「どうしてその診療科に?」といった質問を受けることがあるかと思いますが、ほとんどの方は「面白いと思ったから、興味があるから」と答えてきたのではないでしょうか?そう、忘他利己のニュアンスは、みなさんの根底にあるはずなのです。一流と言われている先生方も無意識のうちに実行されているはずです。
私がいま面白いかもと思っていることの1つに、抗菌薬の適正使用や、耐性菌の問題を地域のみなさんで共有できたらいいな、またそういったことをへき地診療所から発信できたらいいな、といったことがあります。私のいる吾妻地区は、草津温泉を始め風光明媚な観光地が多くあります。年始に、草津白根山の噴火がありましたが、もしかしたらこれによって観光客が減るかもしれないという思いがありました。観光地としての魅力が落ちるという枠組みで考えると、もし観光地で耐性菌がブレイクしてしまったらどうなるんだろう?やっぱり観光客さんは減ってしまうんじゃないか?といった思いも強くなりました。観光地で抗菌薬の適正使用や耐性菌に関して考えることは、医学的な面だけではなく、経済的な面でも影響があるものと考えます。

自分が起こしたアクションが良い方へ向かうかどうかなんてことは、やってみなければわかりませんが、良い結果に繋がらなくてもいいかな、とも思っています。こういった取り組みを提案したときに、(こんな若造に言われて)地域の先生方はどんな顔をするのか?役場の方はどんなリアクションをするのか?そういったことにも非常に関心を持っているので、結果を出さなければというプレッシャーはあまりありません。うまくいかなかった場合には県人会の後輩、また全国の皆さんにブラッシュアップしていただいて、あれこれ工夫して取り組んでいただければ嬉しく思います。
義務年限中の若手の先生方も代々の先輩方が勤務されてきた病院・診療所を引き継いで働くわけですが、決まりきった業務をやる以外にもまだまだへき地でやれそうなことはたくさんあるはずです。私の場合ですと、直近では群馬大学医学部の地域枠の学生さん・研修医の先生方と座談会を開かせてもらったり1)、市立中高一貫校の中学生キャリア教育で講師をさせてもらったりもしました。へき地で勤務するだけでなく、これからの県内の医療を盛り上げることも自治医大を卒業した自分のミッションであるとも考えていますので、将来の医療を担う学生さん達に早いうちからアプローチしてみたいという気持ちもあり、そしてそのことを非常に面白く感じます。
当施設での任期としては今年度までの予定ですが、思考停止に陥らずに、面白いことをたくさん探していけたらと思います。

1) 群馬県地域医療支援センター 座談会~地域医療ここだけの話~ 第3回 https://www.gmcc.jp/?p=7312

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