医学部
School of Medicine
臨床薬理学部門
Clinical Pharmacology
講座名
医学部 |
薬理学講座 臨床薬理学部門 |
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医学研究科 |
修士課程 医科学 臨床連携科学 臨床薬理学 |
博士課程 人間生物学系 生体防御医学 細胞分子薬理学 |
講座・部門紹介
““臨床薬理学”は基礎医学としての薬理学とは異なりヒトにおける合理的な薬物療法の確立、薬の適正使用などを目指す実地臨床に繋がる領域として第二次大戦後、欧米で展開されてきた学問分野です。1974年わが国で初めて臨床薬理学講座が設置され海老原昭夫先生が御着任されました。海老原先生は本学初代教授として、また一時期は大分医科大学(当時:現在 大分大学)臨床薬理学教授として本邦における臨床薬理学の基盤を築き、その発展に尽くされました。1994年に海老原先生が御退任された後、後任として藤村昭夫先生が臨床薬理学教授にご就任され2017年御退任までの長きに渡り本部門のさらなる発展に尽くされるとともに本邦の臨床薬理学を牽引され、薬の適正使用法の確立に向けた基礎・臨床研究:時間治療学、ファーマコ・トキシコジェノミクス、薬物相互作用学、バイオマーカー研究、循環器、腎臓・代謝内分泌系疾患の病態生理学的解析など幅広い領域の研究で成果をあげてこられました。
2017年以降もこの伝統を踏襲し歩んで参りましたが、2025年春、心意気も新たに実験モデル動物・培養細胞を用いた病態研究、既存薬あるいは新規化合物の薬効評価、TDM・薬物動態研究、疾患原因・感受性遺伝子解析、体液サンプルを用いた疾患特異的バイオマーカーの探索などについて取り組んでおります。
なお2003年に講座再編が行われ、薬理学講座という大きな枠組みの中に分子薬理学部門(旧・薬理学講座)と臨床薬理学部門(旧・臨床薬理学講座)の2つの部門が配される体制となり現在に至っております。
臨床薬理学部門は研究・教育ともに臨床業務との連携の中にあるためスタッフには臨床経験が求められることが多く、臨床現場に立つ医師・薬剤師が主体ですが、基礎研究者もメンバーに加わって基礎と臨床とを架橋出来る体制としております。
医学部では4-5年生の講義およびベッドサイドにおける実習、看護学部では2年生の講義において臨床に直結する医薬品の適正使用にかかる知識・実践力を伝えるべく尽力しております。
大学院生・研究生といった若手も加わり関連診療科・講座とも連携しつつ研究活動を展開しています。なお大学院教育については関連講座・部署の教員も加わり幅広い研究課題に取り組めるよう配慮しております。
合理的な薬物療法を学ぶ上で臨床薬理学は大変重要な領域ですが、本邦においてそのような環境が整備された医育機関は限られております。わが国における薬物療法の向上に意欲のある医師・薬剤師・その他の医療職の方々、医薬品開発を目指す薬系・生物系・医療系学部の学生・大学院生の方は是非ご連絡ください。
スタッフ
(兼 附属病院臨床薬理センター長)
(附属病院 臨床薬理センター室長)
研究紹介
心血管疾患およびがんにおける病態解明と新規診断指標・治療薬の探索
心血管・内分泌疾患およびがん(主に消化器領域)―これらの疾患が主要な研究課題と考えており関連診療科と連携しつつ診療・研究に従事しております。診療現場におけるデータ収集を基盤とした薬物療法の有効性・副作用・薬物動態等に関する臨床研究、臨床と基礎医学を架橋する病態生理・薬理学的研究に取り組んでおり、主な課題は以下に示す通りです。
- 大動脈解離・瘤の病態解析とその予防的薬物療法の構築
マルファン症候群などの遺伝性・家族性大動脈疾患に以前から取り組んで来ましたが、その原因遺伝子解析の中でたまたま遭遇した家族性大動脈解離(FTAAD)家系で同定された原因遺伝子をそっくりそのまま導入した遺伝子改変マウスを作製し解析を進めており非常に興味深い知見を得ております。今後、同様の手法を活用することにより難治性疾患の病態解明につなぐことが出来ればと期待しております。 - 自律神経による循環調節機序の解明と治療への応用
生活習慣病における心血管イベントの発症・進展に、過剰な交感神経活性化が密接に関連しています。高血圧や心不全モデル動物に対して、交感神経活動記録や除神経、脳内変化、心血行動態解析などの手法を用いて、末梢神経と中枢連関による血圧・体液量調節機序の解明に取り組んでおり、既存薬物あるいは新規化合物による薬効を評価し治療への応用を目指しています。また、高血圧患者に対して、新規の交感神経評価法である皮膚交感神経活動記録を用いて、交感神経活動と夜間・早朝高血圧との関連や薬物治療介入による変化を評価し、診療への応用を目指しています。 - 体液サンプルを用いた疾患特異的バイオマーカーの探索
現在、がんの診断は主に組織生検に基づく病理診断が中心ですが、この方法は侵襲性が高く、患者への身体的負担や合併症のリスクを伴います。また、腫瘍組織の一部しか採取できないことから、得られる情報は断片的であるという課題があります。こうした中、近年注目されているのが、血液・尿・唾液などの体液を用いた「リキッドバイオプシー」です。リキッドバイオプシーでは、体液中に含まれる腫瘍由来のエクソソーム、遊離DNA・RNA、microRNA、さらにはタンパク質や脂質などの情報から、がんの存在や進行度を評価することが可能となります。現在、特にゲノム情報に基づく診断が進んでいますが、その一方で、より病態に直結するプロテオームやメタボロームの情報が、今後のがん診断において極めて有用であると考えられています。そこで本研究では、次世代の質量分析技術であるPESI-MS/MS(探針エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析)を用いたマルチオミクス解析により、がん患者の体液中に含まれるタンパク質・脂質を迅速かつ網羅的に解析し、新規の疾患特的バイオマーカーの探索に取り組んでいます。 (本研究は消化器一般移植外科、臨床研究センターTR研究推進部との共同研究です。) - アテローム性動脈硬化症進行を惹起するエピジェネティック因子の同定
血管疾患は依然として死亡率の主要な原因であり、血管平滑筋細胞の病理学的変化は疾患進行において重要な役割を果たします。血管平滑筋細胞は、収縮性と増殖性の表現型の間で可塑的に変化し、新生内膜過形成を伴うアテローム性動脈硬化症や再狭窄などの病態を引き起こします。この表現型の可塑性には、ヒストン修飾を含むエピジェネティックな制御が関与していますが、疾患進行を惹起するエピジェネティック因子は未だ解明が進んでいません。そこで私たちは、血管平滑筋細胞の脱分化と新生内膜過形成を決定するエピジェネティック因子の同定に取り組んでいます。私たちはミオシン重鎖Myh11遺伝子発現を指標としたヒストン修飾因子の網羅的スクリーニングを行った結果、原因遺伝子の候補として一つの遺伝子に辿り着くことが出来ました。現在、この遺伝子を欠損させたマウスを用いて新生内膜過形成のメカニズム解明に取り組んでいます。(本研究は東京大学大学院医学系研究科先進循環器病学(藤生克仁教授)との共同研究です)
診療現場における臨床薬理学に根差した支援 および その支援を介して取り組む臨床研究の展開
診療面においても臓器障害、多疾患合併あるいは移植医療、小児患者といったスペシャルポピュレーションにおける薬物療法に対するコンサルテーション、がん薬物療法に合併する様々な合併症に対する介入、薬剤部とともに実施している妊娠・出産・授乳婦に対する“妊娠と薬”外来など 様々な局面に対して臨床薬理の立場から参画しており、“一人の患者さんに全力を尽くす”という精神のもと日々最適な薬物療法の実践に取り組んでおります。
また当院における生体肝移植の歴史は20数余年ですが、その薬物療法支援も伝統ある研究課題としております。
加えて大学・病院における支援業務として臨床試験で使用される治験薬の事前ヒアリングに臨床薬理の立場から参画し助言を行うとともに、それらの審査にも積極的に関与しております。
- 小児医療における薬物療法支援と薬物動態学・薬力学を考慮した薬物治療への応用
小児は一般的な成人集団と比較し薬物動態および薬剤感受性が異なる特性を持っています。一方、既存薬は成人からの応用で経験的に使用されており、小児における薬物動態学・薬力学追及、それを用いた個別化医療への取り組みは遅れています。薬物療法支援を通して小児患者の薬物動態学・薬力学を解明することにより、より良い薬物選択、用法用量へ繋げることを目指しています。 - 移植医療における薬物療法支援と移植成績向上に資する薬物療法の改良・開発
カルシニューリン阻害薬等の免疫抑制療法の発達に伴って臓器生存率、患者生存率は改善している一方長期生存率の向上は未だ課題となっており、免疫抑制薬の長期使用による副作用(易感染性、慢性腎障害等)も問題となっています。生存率を改善しつつ副作用を軽減・回避するための免疫抑制薬使用方法の改良・開発に取り組んでいます。
教育担当分野
- 薬理学講義・実習
- 臨床薬理学講義
- 看護学部講義「臨床薬理学」
- 大学院看護学研究科「臨床薬理学持論」
- 必修BSL(臨床試験と倫理、薬物動態シミュレーション)
- 医学系研究科大学院博士課程講義(内科学Ⅰ、内科学Ⅱ)
関連組織
- 大学院医学研究科 博士課程 人間生物学系生体防御医学細胞分子薬理学
- 大学院医学研究科 修士課程 医科学専攻臨床連携科学臨床薬理学
- 附属病院/臨床薬理センター
連絡先
薬理学講座 臨床薬理学部門
Tel 0285-58-7388
Fax 0285-44-7562
rinshoyakuri@jichi.ac.jp