医学部
School of Medicine
類を以て集まる
自治医科大学 地域医療学センター 公衆衛生学部門(兵庫26期)
阿江竜介 兵庫県
世界200カ国以上で読まれている米国の週刊誌「TIME(タイム)」。この雑誌は毎年「世界で最も影響力のある100人」を選んだ特集号を発刊している(TIME 100:the 100 MostInfluential People in the World)。2011年、自治医大卒業生の菅野武先生(宮城28期)がTME100の一人に選ばれた。同年の受賞者には、米国のバラク・オバマ元大統領やミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏などの著名人が名を連ねている。菅野先生は派遣先の病院で東日本大震災に遭い、津波から逃れるために患者を最上階に避難させた。震災3日後まで医療行為を続け、最後の一人として救出された。これが受賞につながった。我々の誇りである。
栄えある受賞から2年後、私は本学の広報イベントで菅野先生にお会いした。私は本人に「菅野先生!君は本当にすごいな!」と話しかけた。すると、ちょっと意外な答えが返ってきた。「いいえ、先生!自治医大の卒業生なら誰でも、あの場では私とまったく同じ行動を取ったと思いますよ」。これには感動した。感動したというよりも「確かにそうだなぁ」と妙に納得した。これ以降、自治医大の入試説明会で必ず私は「受験生の皆さん!自治医大を卒業したらみんな菅野先生みたいになれますよ!(と、本人も言っていたし)」と話すようになった。
類を以て集まる、という言葉がある。気が合う者や考え方が似ている者は、自然と寄り集まるという意味だ。生まれも育ちも違うのに、自治医大の卒業生は、義務年限が終わるまでの間に不思議と、類を以て集まるようになる。出身地だけでなく、派遣先の環境や文化も異なるのに、なぜか同じようなマインドが備わってくる。手前味噌かもしれないが、これを「自治医大マインド」と名付けよう。このマインドを具体的に言葉にするならば、「社会に貢献できるリーダーシップ」だと私は思う。大震災の渦中で、菅野先生は自治医大マインドを存分に発揮した。無意識にも彼が「卒業生ならみんな同じ行動をとったと思う」と答えたのは、卒業生が皆同じ自治医大マインドを持っていると感じていたからだろう。我々卒業生は多様性があるように見えて本当は、均質なマインドを持った集団なのだと思う。菅野先生のTIME誌の受賞は、自治医大マインドが世界から高く評価された結果だと解釈したい。
自治医大のミッションは、地域のリーダーとして必要な教養と資質を備え、社会に貢献する気概を持った医師を育てることだ(ホームページ参照)。言い換えれば「自治医大マインドの醸成」である。最近、世界中で「どうやったら自治医大マインドが育つのか」という課題が注目されている。暗黙知ではあるが、卒業生はその方法を知っている。卒業生の経験を体系化し、世界にアピールしたい。そういう気概のある卒業生がもっと増えて欲しいと思う。
【備考】この作品は、菅野先生に査読していただいたうえで寄稿いたしました。