医学部 School of Medicine

医学部

School of Medicine

インタビュー

(2016年4月 取材)

過去からの時間軸の上に課題を位置づけ現状の解決と未来の方向性を導く

原徳壽

千葉県成田市 成田空港検疫所(現:医療法人社団静岡メディカルアライアンス)

所長/顧問原徳壽 京都府

迷いを感じたら新しい方向に挑む

成田空港には世界各国から多くの人が訪れ、多種多様な貨物が届きます。検疫所の規模も、全国の国際空港と国際貿易港に設置された中では最大で、現在は約120人体制で海外から感染症や病害虫が持ち込まれることや海外に持ち出されることを防いでいます。

国の医療行政に関わるきっかけは、偶然です。義務年限の9年間で臨床研修はもちろん、公衆衛生院、保健所、京都府庁での勤務などさまざまな経験をした最終年の夏、厚生省の医系技官になる誘いを受けました。当時は、自治体の仕事をいろいろと経験したのだから、国の行政も覗いてみようと考えた程度だったのですが、その結果、定年まで奉職することになりました。

人生は、何が転機となるか分かりません。ですから、経験を重ねながら考えればいい。自治医科大学で学ぶ皆さんは、在学中にほぼすべての診療科を経験でき、地域医療の現場に触れることもできます。それらを経験する中で、医師として進むべき道を探してみるのもいいでしょう。私の場合、振り返ると、迷った時は新しいことに取り組んできたように思います。迷いとは現状に満足していないことの表れと考え、それを打破するために新しい環境や仕事を選んできたのかもしれません。

医系技官としては、着任時の名称でいえば厚生省、労働省、環境庁、文部科学省、防衛庁、そして厚生労働省と多くの省庁に籍を置き、その間に富山県へ出向もしています。そのため、医療に関わるさまざまな現場を経験しました。義務年限中の京都府庁での仕事を含めると、ハンセン病問題、地域での患者実態調査、結核感染症サーベイランスシステムの導入、医療計画の策定、水俣病の認定問題、看護学校での教育など多彩です。また、診療報酬の改定、診療所と病院との機能分化、医療法の改正など、今日に続く医療行政の過渡期に、それぞれの職務に当たりました。

患者不在では医療は成立しない

行政の仕事に絶対的な正解はありません。しかし、立場や価値観が異なる大勢の人が関わる中で、実行可能な最適解を導かなければなりません。私が判断の拠りどころとしたことは医師としての視点と、「いま何をすべきか」という規準でした。医師としては、患者さんを第一に考えました。患者さん不在では、医療は成立しないからです。また「いますべきこと」については、まず自分なりの疑問点を徹底的に追究します。常識とされることや前提を鵜呑みにせず、自分が納得できる解を得るまで「なぜ?」という疑問を投げかけ続けます。そして現状の課題はもちろん、そこに至る歴史や成立の背景を勉強した上で、現場にいる人の意見を数多く聞きました。過去からの時間軸の上に課題を位置づけることで、「いますべきこと」の結論と未来の方向性が必然的に見えてくるからです。

現在の仕事も同様です。検疫法は現職に着任後に勉強を始めました。世界では新しい感染症が出現し、医師として重要な関心事です。私の勉強も、まだ続きそうです。

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