医学部 School of Medicine

医学部

School of Medicine

インタビュー

(2018年4月 取材)

地域や勤務先が抱える課題を取り組むべき課題と考え「幸せになれる医療」を実現する

小松素明

兵庫県豊岡市 公立豊岡病院組合 豊岡病院日高医療センタ一

内科部長小松素明 兵庫県

分かりやすい医師の言葉に患者の話は弾む

老人の話が終わらない。足の裏に小さな痛みがあり、外来に訪れた男性患者だ。小松は魚の目と診断し、対処を説明する。魚の目は新陳代謝の不良も原因になる。「血行に気をつけて」と、日常生活への助言を加えた。すると老人は「血のめぐりは心配やねぇ」と、別の症状を語り出す。その話も一通り終わるや「もう一つ言いてぇんだが」と、 新たに話し始めた。小松は相づちを打ちつつ医師として答えていく。
「目の前に並ぶカルテから混み具合を見て、空いている時は、5分は話を聞きます」確かに、老人が診察室に入ってきたのが10時35分で、しゃべり尽くして診察室を後にしたのが10時41分だった。小松はこの間、ひと言も医学の 専門用語を口にしていない。だから老人も医師の言葉を理解し、話を弾ませたのかもしれない。
魚の目は、一般には皮膚科で治療する。小松の役職は内科部長。しかし患者は医師の専門などあずかり知らぬとばかりに、さまざまな症状を訴える。「お元気ですか?」という挨拶代わりのひと 言に、「元気か、と言われると…」と、日々の不安や不快を次々に挙げた患者もいた。ある日の外来診療中、数十分でも地域における総合診療医のリアルな現場を知ることができる。

小さいが全体を機能させる地域医療の“歯車”になる

小松が勤務して8年目を迎えた日高医療センターは、兵庫県の日本海沿岸、豊岡市の南にある。市の中心に立つ豊岡病院を中核病院とする3つの医療センターのうちの一つだ。豊岡市内に2つ、南に隣接する朝来市内に1つある医療センターは、医療圏よりも機能を分担する。日高医療センターは兵庫県北部の但馬医療圏で、古くから透析設備を持つ医療機関であり、健診に力を注いできた歴史も持つ。同センターに着任してから、小松も透析を行うようになった。「地域の医師不足は、長年解消できない課題。医師にできることは限られますから、やれることは 何でもやります」
近年は、外部での講演にも多くの時間を割き、聴衆ごとに医療状況への理解、生活習慣病への注意と予防、多職種連携の促進などを訴える。
「医師になって自分の課題は持ったことがない。 勤務地が変わる度に、職場や地域の課題が、自分の課題にすり替わってきました」と言う小松は、日高医療センターと自身の役割を“歯車”にたとえ、その真意を「それ自体は小さいが、なければ全体が機能しない」と説いた。
勤務地ごとに課題を変えてきた小松にも、医療 に通底させるテーマがある。それは患者や家族、 医療スタッフも「幸せになれる医療」。診療を終えた患者が笑顔でつぶやいた。
「小松先生はやさしいから」
日本海沿岸の漁師町から軽トラックを走らせ片道25kmの通院をしている82歳の女性患者は、しばらく立ったまま、日高医療センターの良さと小松医師の人柄を自漫のように語った。「幸せになれる医療」は、地域に根付いているようだ。

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