医学部 School of Medicine

医学部

School of Medicine

インタビュー

(2022年度 取材)

小児科の臨床経験を社会の課題とリンクさせ解決に導く力

松原優里

地域医療学センター 公衆衛生学部門

助教松原優里 京都府

2005年、自治医科大学卒業。卒業と同時に栃木県出身の同級生と結婚。自身の出身地・京都で初期研修後、栃木県と京都府で小児科医として勤務。義務年限7年目からは小児療育を専門とする。2017年より現職。2019年渡米しMPH(公衆衛生学修士)を取得。2021年より現職に復帰。

地域の小児科医療で直面した社会問題

 在学中はボランティアサークルに所属していました。地域の児童館に通い、障害をもったお子さん達が、その兄弟や地域の子供達と一緒に遊ぶ企画を考えるなどの活 動をしていました。筋ジストロフィーの方々とテーマパークに行ったこともあります。保護者の方々の悩みを聞くこともあり、そうしたサークルでの経験が小児科への関心につながったのだと思います。そして義務年限中も小児科医として勤務し、7年目からは心身に障害を持つ子供達に治療と支援を行う小児療育やリハビリテーションの施設を職場としました。

 社会や環境の影響を受けやすい子供やその周辺では、世の中の矛盾や課題が顕著に現れます。外来の診療で虐待の可能性に気付き、児童相談所と連絡を取り合いながら、お子さんをフォローすることもありました。地域の保健師さんや教育の現場と連携し、保護者と話をしやすい環境を作るなど、医師だからこそ対応できるケースがあるのです。しかし、一方で、医師一人の力では解決できず、社会全体の仕組みを変えていかなければ改善できないと思われる課題にも直面してきました。地域でさまざまな経験をしながら、患者さん一人ひとりと向き合った臨床の経験を、社会全体に関わる課題とリンクさせて考えるためのアカデミックな力とスキルを自分に求めるようになりました。

 ちょうど義務年限が終了した後のキャリアをどのように開こうかと考え始めた時期となったタイミングでした。この頃、3人の子供がおりましたので、子育てと両立できる環境が整えられた母校の地域医療学センター公衆衛生学部門で働くことを選択します。

地域医療で求められる社会医学の視点と思考

 公衆衛生学部門では、自治医科大学が長年継続している疫学調査に加わり、調査で収集したデータを解析しています。また3年生が受講する「疫学」と5年生の「公衆衛生学」の授業で講義もしています。地域での臨床医学を志す自治医科大学生にとっては、イメージがしにくい医学分野であり、しかも「公衆衛生学」で行われる「保健所実習」は本来、地元の保健所での実習を含む科目ですが、コロナ禍では学外活動が制限されてしまいます。そこで取り入れたのが、私がアメリカの大学院で受けた課題解決の教育プログラムでした。学生には好評で、自分が保健所の一員になったと仮定し、地域の課題を抽出し、それに対しての保健介入政策を提案して、解決策を導くという過程に、積極的に取り組んでくれました。

 「疫学」の実習でも、課題を見つけてデータを集め、それを分析して回答を得るプロセスを経験してもらいますが、これは臨床研究の進め方に通じています。研 究の意識を持って日々の診療に当たると、だれもが気が付いていない重要な課題にも気付き、義務年限中であっても研究論文を書き上げられることを、私自身が経験しています。

 卒業して地域医療を担うようになると、社会的な視点で医療を考えることの重要性に気付くことでしょう。疫学や公衆衛生学は、「社会医学」という分野です。これらを、カリキュラムに編入し、相当の授業時間を割り当てている自治医科大学の教育は特異といえるかもしれません。見方を変えれば、地域医療で必ず求められる視点や考え方を養う科目であるということ。私はこの分野を仕事としながら知見を積み重ね、社会的な問題解決力を高めたうえで地域の臨床とつなげていくことを、次のキャリアの選択肢として考えています。

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