医学部 School of Medicine

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School of Medicine

インタビュー

(2023年度 取材)

公衆衛生の場から地域を支える

宮園将哉

大阪府健康医療部保健医療室 副理事
大阪府地域医療支援センター センター長

宮園将哉 大阪府

 1996年、自治医科大学卒業。大阪府立病院(現・大阪急性期・総合医療センター)で研修後、同病院救急診療科(救命救急センター)にて勤務。2000年から大阪府庁健康福祉部医療対策課へ異動し、以後大阪府保健所や大阪府庁において公衆衛生医師として勤務。2010年、大阪府泉佐野保健所長となった後、複数の保健所で所長として勤務し、2020年より現職。

公衆衛生は臨床現場と表裏一体

 通常は卒業生の多くが地元のへき地に一定期間勤務しますが、大阪府にはへき地がありません。そのため私が大学を卒業したときは、当時から医師が足りていなかった公衆衛生か救急医療のどちらかを選択することを求められていました。私は学生時代から救命救急医を志していたため、救急医療を選択しましたが、実際に現場で働いてみると、大阪では大きな病院が多く、脳卒中や心筋梗塞などの内因性の救急疾患はそれぞれの診療科が診ていました。私が学生時代に思い描いていた救急は「時間外の患者はすべて診る」ものでしたから、その違いに困惑しました。そんな中、大阪府庁から公衆衛生の仕事をしないかとお話をいただき、断る理由はなかったので受け入れました。

 公衆衛生の仕事は、最初は府庁で働くことになりましたが、幸運なことに配属1年目に全国初のインターネットを活用した救急医療の情報システムの導入に携わりました。今では当たり前になっていますが、医療機関の情報をリアルタイムに情報共有できる初めての試みでした。関係団体に理解してもらうためのプレゼンに同行し大変勉強になりました。また、翌年には災害時の医療救護マニュアルをつくるプロジェクトに携わり、「この仕事もいいかも」と思うようになりました。

新型コロナウイルス感染症における対応

 2019年に新型コロナウイルス感染症が発生した際、私が主に関わっていたのは、新型コロナのクラスター対策です。感染クラスターが発生した病院や施設などの現場は十中八九パニック状態になっているので、まずは現場の施設を訪問して病院長や施設長、担当スタッフに落ち着いてもらうところから始め、職員のみなさんに寄り添い、今後の方針を提案しながら一緒に考えていきます。

 「職員のみなさんの健康と安全を守ることが、患者さんの命を守ることにつながります」「今日から1週間程度は感染者が増え続けますが、正しい対策ができれば必ず2週間で感染は収束します」「今日から3日間が一番のヤマですが、1週間すれば感染から回復した職員も戻ってきます」と背中を押し、実際に新しい感染者が出なくなると彼らも自信をつけてくれる、という経験を繰り返していました。

 公衆衛生というのは臨床現場と表裏一体になっていて、より良い医療を提供するための環境づくりをする仕事です。臨床の先生方は気づきにくいかもしれませんが、臨床現場を支える仕事だと思っています。しかし、行政分野で働く公衆衛生医師はまだまだ足りない状況で、私を受け入れてくれる場所があると思えていることも、この仕事を続けられている理由になっていると思います。

よく聞き、わかるように話し、信頼関係を築く

 公衆衛生では、多くのステークホルダーの意見を聞きながら1つのチームとして束ねるリーダーシップやマネジメントの能力が求められると思います。医師を含む関係者に1つずつ合意を得ながら話を進めるので、専門知識だけでなく信頼関係も重要です。相手の話をよく聞き、こちらの言いたいことがわかるように話す能力が求められると思います。

 私が医師として大事にしているのは、相手の話をきちんと聞くということです。困りごとをまず聞いて、受け入れていく。そうすると少しずつ相手の顔色が落ち着いてきて、こちらの提案も通りやすくなります。全体像を見せながら、嫌なことは無理強いしないようにして、近いゴールを少しずつ超えられるように話をします。こうした小さなステップを積み重ねることで信頼が得られ、ともに前に進んでいく感覚があります。

 私たちのように医師として公衆衛生行政の現場で働く場合、単に公務員としてのスキルだけではなく、医師としての基本的な知識や技術が求められます。私自身は初期研修の時期を含めてもそれほど長い期間臨床に従事していたわけではありませんが、臨床の現場で日々患者さんやご家族と向き合ってきた過去の臨床経験を活かしながら、現在の行政の現場で公衆衛生の仕事を続けています。

幅広い卒業生のネットワーク

 自治医大の卒後義務は公衆衛生の仕事と親和性が高く、全国の保健所や都道府県庁には自治医大卒業生がたくさんいます。また、全国保健所長会の現会長は内田勝彦先生(大分県8期)ですし、以前は宇田英典先生(鹿児島県1期)が会長をされていました。さらに都道府県庁や厚生労働省などで重要な役職に就く卒業生もいますし、尾身茂先生(東京都1期)や國井修先生(栃木県11期)のように世界的に著名な卒業生もいらっしゃいます。

 他大学に比べて、自治医大は公衆衛生・保健医療行政に進む卒業生も多く、大阪府でも保健所や府庁に卒業生がいます。今回の新型コロナ対策では、大阪府では保健所だけではなく、府庁に設置した入院フォローアップセンターにおいて、患者の入院調整を担っていた卒業生もいましたが、それだけではなく重症患者を受け入れていた府内の救命救急センターや、中等症患者を受け入れていた病院の中で、卒業生がいる病院は行政側から特に頼りにでき、卒業生のネットワークに助けられた部分も大きかったと思います。

大学で総合医としての姿勢を育む

 自治医大で特に学ぶのは医師としての姿勢だと思います。多くの卒業生がへき地で働く総合医になるため、「まずは自分が診て対応する」という姿勢が身につきます。「医療の谷間に灯をともす」という言葉が象徴的で、学生時代にあまり成績が良くなかった私でも、そういった姿勢を身につけることができたのは、自治医大ならではの恩恵だと思っています。

 全寮制だったこともメリットでした。一人で放り出されることもなく、友達や先輩と囲まれて過ごす日常は良い環境です。特にテストの時期に入ると勉強しなければいけない空気感が常に大学や寮にありましたから、私が留年せず6年で卒業できたのは寮生活によるところが大きかったと思います。

 また、同じ都道府県出身の人が集まる県人会で学ぶことも多く、周囲への配慮や礼儀などは県人会で改めて教わったと思っています。卒業後は全国の地元に戻るため同級生もバラバラになりますが、その一方で地元の病院などの職場で同郷である県人会の先輩後輩と一緒に仕事をすることになります。お互いのバックグラウンドを知った者同士なので、とても安心できる存在だと思っています。

求められる場所で総合医として貢献する

 総合医はおそらくこれからもっと必要になってくると思います。自治医大では卒後義務があって進路に制限がかかるのではないかと心配される方もいますが、私は逆の見方ができると思っています。私たちの進路は医師が来ることを期待されている場所であり、地域から求められる場所で働けるのは、非常にありがたいことと言えるのではないでしょうか。若い頃から地域社会に必要とされていることを実感できるので、そこが自治医大の魅力だと思っています。

 総合医として地元のために貢献したいと考える方にとって、自治医大は本当にぴったりな大学だと思います。同じ志を持った仲間と、総合医としての総合的なスキルを学べる環境です。同じ志のもと同じ環境で育ってきたからか、考えていることが非常によく似ているように思います。

 自治医大の卒業生同士が学会などの場で顔を合わせると「○○県○期の○○です」という独特の挨拶から始まり、「○○県なら○○先生はご存知ですか」「○期だったら○○先生をご存知ですよね」という共通の知り合いがいることで話に花が咲き、さらに話を聞いてみるとそれまでの活動とその意図には共通の意志を感じます。同じような志を持った先生方が全国にいるというのは、自治医大ならではの強みだと思います。

 私は学生時代の成績はあまり良い方ではありませんでしたが、卒業後の職場で周りの人たちから評価してもらえることが多かったのは、自治医大ブランドに助けられてきたからだと感じています。卒業生としては、今後も大学にはこのブランドの価値をさらに上げるよう頑張ってもらいたいと思っていますが、それ以上に、卒業生の後輩達が胸を張って「自治医大出身です」と言い続けられるように、私たち卒業生各自がそれぞれの職場で活躍するとともに、卒業生のみんなが自信を持って活躍できる環境をさらに整えていきたいと思っています。

宮園将哉先生(大阪府):医学部卒業生VOICE

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