医学部
School of Medicine
(2024年度 取材)
”どんなことも気軽に話せる”村民にとって身近な存在でありたい。
奈良県 山添村国民健康保険
東山診療所·豊原診療所 所長
(2024年3月まで)
中本順 奈良県
総合診療專門医
家庭医療專門医
在宅医療認定專門医
日常に溶け込んだ「くらしを支える診療所」
奈良県の北東部に位置する山添村は人口3,200人ほどの山間地域です。3つの地区に分かれており、私は2023年から総合医・家庭医として東山と豊原地区の診療所を担当しています。ここでは内科はもちろん、小さな外科的手術、小児対応、整形外科の処置まで何でもします。村民の皆さんはとても親切で、畑で採れた野菜や手作りの料理をお裾分けしてくださることもありますが、特にうれしいのは、「お医者さんっぽくなくて話しやすい」「先生に言われたらしゃあないなぁ」と言ってもらえること。それだけ身近に感じてもらっているからであり、私にとっては一番の褒め言葉です。このような住民が地元に愛着をもつ山間地域においては、「くらしを支える診療所」が必要です。日常に溶け込んでいて、ここに来ればいろんな会話ができる。その何気ない会話から、例えば悩みを打ち明けることで心が軽くなり体の不調も改善する、自覚していなかった健康問題がわかり解決していく、ということにつながります。住み慣れた地域で長く暮らせるよう、さまざまな病気の予防を含め日々の生活を健康に過ごすことが重要なのです。
医師と理学療法士の知識を活かせる地域医療
医師になる前は、理学療法士として病院に勤務していました。身体機能や能力改善にやりがいを感じていましたが、中には入退院をくり返してどんどん弱っていく患者さんもいます。そのような患者さんの想いに応えられないもどかしさを感じて、もっと病気自体を理解して患者さんを治したいと医師を志しました。なかでも自治医科大学を志望したのは、地域医療に従事する医師を養成する大学であること。リハビリは本来あるべき姿に戻すという考えや、障害をその人の特徴としてとらえて、その人らしい生活を支えるものです。地域住民の生活そのものを支える地域医療と似ていることから、理学療法士としてのキャリアを活かせるのではないかと考えました。実際にへき地では財政的にもリハビリ専門職を雇うことが困難です。そのため、診療する中で自宅でできるリハビリ方法をアドバイスするなど理学療法士としての経験はとても役立っています。
医師として悩んだ自宅で看取るという決断
山添村に来る前は、黒滝村でへき地医療に従事していました。ある60代の患者さんですが、症状が強くなると救急車を呼んで、病院で検査・加療を受け、症状が落ち着いたらご自宅に戻るということをくり返していました。ご本人も、支えているご家族もとても苦しかったと思います。
ただ「最期は自宅で命をまっとうしたい」と、ご本人やご家族は大きな病院にかかるのではなく「先生にお任せします」とおっしゃってくださいました。信頼してもらえたうれしさはありましたが、1人の命が自分1人の手に委ねられることへの迷いはなかったわけではありません。最終的にはご本人やご家族の想いを受け止めざるを得ない状況で、自宅でお看取りすることにしました。
そしてお看取りを終えた後、ご家族から「先生も不安だったと思いますが、安心して最期を迎えられました」と声をかけられました。そのとき、私の心の葛藤を見透かされていたことにハッとしました。覚悟が足りてなかった、信頼に応え切れていなかった自分の未熟さを恥じました。すべて背負う覚悟をもつということ。地域医療に携わる医師としての一歩を踏み出せたこの経験は、今でも忘れられません。
プライマリケアの現場で大切なのはチームカ
私が普段から大切にしているのは「つなぐ」という意識です。義務年限のシステム上、医師は2年ごとに交代します。その中で医療の継続性を保つには看護師をはじめとする医療スタッフたちとのチームワークが重要です。医療スタッフは窓口や電話対応などで患者さんやご家族の様々な情報を把握しています。普段からみんなでコミュニケーションを取りやすい雰囲気を保ってメンバー間を「つなぐ」ことで、様々な情報を共有できるチームづくりを心がけています。また、住民の生活を知ると地域を知ることができ、必要な治療ができる病院や専門医に「つなぐ」こと、保健や福祉など生活に関する支援を「つなぐ」こと、さらにはご家族と地域社会を「つなぐ」ことができ、診る医師が変わっても安心して“いつも通りの暮らし”を支える環境を作っています。
現在は、診療所を代表して「地域ケア会議」にも参加しています。役場をはじめ地域をより良くしたいと考えている方々とともに地域の課題を吸い上げて解決策を考える作戦会議で、毎回ワクワクしながら参加しています。2024年4月からは奈良県曽爾村にて勤務することになりますが、そこでも「つなぐ」ことを意識しながら地域づくりに貢献していきたいと考えています。
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