医学部 School of Medicine

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メッセージ リレーエッセイ

北海道の田舎町で働いて感じたこと

佐々尾航

北海道立羽幌病院(北海道29期)

佐々尾航 北海道

私は、2006年に自治医大を卒業し、その後札幌医大・市立函館病院での初期研修後に、道立羽幌病院・利尻島国保中央病院で地域勤務を行ないました。その後、2年間自治医大消化器内科で後期研修をさせていただき、8年目の2013年度より現在の道立羽幌病院で勤務しております。今は10年目となり義務も明けましたが、今年度はそのまま残留して勤務しております。

羽幌町は北海道北部の日本海側に位置する人口約7500人の町で、人口300人程度が住む2つの小島(天売島・焼尻島)があります。海の幸が豊富で、とくに甘えびは日本一の漁獲量を誇ります。焼尻島はサフォーク種と呼ばれる羊を飼育しており、その肉は絶品で一流の高級レストラン御用達の食材です。天売島は海鳥の繁殖地として知られます。

当院はその風光明媚な町にある北海道立の病院で、へき地中核病院に指定され、近隣町村を含めると圏域19000人程度をカバーする病院になります。しかし、実際は医師の減少もあり十分な急性期病院としての機能は果たせてはいません。「地域包括ケアシステム」や「地域医療構想」という言葉が地域における医療の現場では飛び交い、どこの地域もそれに向けて熱心に取り組んでいるものと思われますが、当地ももちろんのことで、急性期病院を維持する形から地域に根ざした医療を提供できる病院へと変わってきています。

当院では一昨年度より、地域により近づいた病院になるべく努力し、昨年度まで約10年院長を勤められた先生が、全国自治体病院協議会による「へき地医療貢献者表彰」を昨年受賞されました。

  1. 巡回診療
    当院は「へき地医療拠点病院」と指定されていますが、その役割の1つとして「無医地区等への巡回診療」があります。当院の診療圏内には4地区が指定されており、それらを含む当院通院へ利便性の低い地区への診療を開始しました。
  2. 訪問診療
    これまでは人員の都合から特定の患者に対象を絞っていましたが、広く通院困難な患者さんの希望を募り対象者を拡大しました。地域の施設への訪問診療も行なうなど積極的に出向いています。
  3. レスパイト入院
    ショートステイは予約が数ヶ月前から埋まってしまうなど、なかなか予約が取れず、介護者のバーンアウトから介護放棄が散見されました。そのため、レスパイト入院でかかりつけ患者さんを引き受けることもしています。
  4. 健康出前講座
    少しでも健康への意識を高めてもらいつつ、病院のことを身近に感じてもらおうと始めました。認知症や死生観などに興味がある方が多いようです。
  5. キッズセミナー
    子供向けの医療体験を行なっています。今年度で3回目となりますが、毎年30人以上の子供たちが集まり、内視鏡や腹腔鏡、調剤や看護体験などを体験します。体験した子供たちからこの地域の医療を担う人材が出ることを期待しています。
  6. 訪問看護ステーションとの連携強化
    訪問看護師はこれまで医師に遠慮して連絡して来ないことが多い印象でした。タイムリーに状態を連絡できたり、患者毎に報告できるように、医療介護用のSNS(Medical Care Station)を活用するようにしました。ささいなことでも連絡し合える関係になりましたし、顔の見える連携ができました。今後は他職種にも広げていきたいと考えています。

これらは様々な地域で取組まれていることであり、特に1~3などは珍しいことでもありません。しかし、道立病院という立場、「急性期病院」という理由で、なかなかこれまで話がうまく進まなかったところでした。「町」にある「道」の病院であり運営母体の違いからなのか、お互いに距離を置いた関係だったことがあるようです。この20年ほど当院の内科は自治医大卒業医師で診療してきており、各先生の長年の努力が実った結果であろうとも考えています。私は偶然そのような環境におりましたので、地域における医療の楽しさを感じることが出来ました。

このような取組みも、まだ始めたばかりで評価は難しいところではありますが、継続していくことも大事になってきます。私も今後後輩達に引き継いでいかなければと思っていますが、必ずしも私たちの思いだけではないこともあります。在宅医療を積極的に進めた結果として、平均在院日数も短縮され、入院してくる患者は増えないので、結果的に収益はマイナスとなります。患者さんによかれと思ってしていたことも、病院にとってはよくないことのようですし、人によっては理解していただけないことのようです。地域における医療の難しさも感じました。

楽しさも難しさも実感しましたが、仕事としては充実したやりがいのあるものと感じます。なにより患者さんや地域の方々に喜んでいただけているのであれば、方向性は間違ってないのではないかと思います。

義務が明けても残っている経緯や、地域でのこの2年半の取り組みから「熱心に『地域医療』をされていますね」と声をかけていただくこともあります。そのように言っていただけることはありがたいことと感じています。ただ、私は特別な『地域医療』をやっているという実感はありません。当院には地域医療実習に学生や研修医が多く来られますが、『地域医療』という言葉に対して目を輝かせる方もいますし、「大変そうで自分には難しそう」という感想を持たれる方もいます。こんな私でも、なんと表現したらよいかわかりませんが、以前はどこか『地域医療』という言葉に暑苦しさを感じたこともありました。そういった経験から、私は研修の締めくくりに、『地域医療』について、長野県の佐久総合病院元院長の若月俊一先生の言葉である「医療はすべからく地域医療であるべき」とのお言葉を引用して、あまり地域の最前線で勤務することが素晴らしいという押しつけではなく、「どのような立場の医師であっても地域医療に貢献できる」と伝えるようにしています。自治医大卒業生の多くが様々な立場で勤務されておられますが、大学で学んだことや各地での勤務の経験を活かして、地域の最前線のみならず、総合病院や大学病院、行政などで、様々な『地域医療』をされていると思います。『地域医療』は、決して特別なものではなく難しく考える必要もなく、背伸びせずにありのままに自分のできることを活かしつつ、目の前の患者さんや地域で起こっていることに、1つ1つ真摯に取り組んでいくことだと思っています。

まだ先々どのような道を進むかはわかりませんが、どのような形でも『地域医療』に関わりたいと思います。

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