医学部 School of Medicine

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メッセージ リレーエッセイ

埼玉県秩父地域における医療の現状と今後の課題

島村寿男

秩父市立病院(埼玉18期)

島村寿男 埼玉県

埼玉県18期卒業の島村寿男と申します。私は自治医科大学卒業後、自治医科大学附属大宮医療センター(現 さいたま医療センター)での2年間の初期研修、また1年間の後期研修以外は、現在の職場である秩父市立病院をはじめとして、国保町立小鹿野中央病院、大滝村国保診療所(現 秩父市大滝診療所)と、医師人生の大部分を秩父地域でお世話になっております。今回は当地域の医療の現状と、長年働いてきた中で感じている今後の課題に関して、二次救急医療を中心に綴らせて頂ければと存じます。

私が働いている秩父地域は、埼玉県北西部に位置し、埼玉県全体の約1/4の面積を占めます。708年(和同元年)に和同開珎の原料となる銅の発見、1884年(明治17年)に発生した農民一揆の秩父事件など、歴史的にも重要な事がらの多い場所です。また都内からも比較的近いため、毎年12月3日を中心に行われる秩父夜祭や、パワースポットとして度々マスコミにも取り上げられる三峰神社など、観光産業にも力を入れています。

医療に目を向けてみますと、医療対象人口は10万人弱で、埼玉県全体のわずか1.3%にすぎず、二次医療圏でみると2025年には約8万9千人にまで、人口が減少すると考えられています。また高齢化率30.7%(2015年)と人口の高齢化が急速に進んでおり、面積の広い医療圏に対し対象人口が少ないといった、他の過疎地域と同様の問題を抱えています。医療圏内に第三次医療機関がないため、重症患者に関しては、近隣の三次医療機関や大学病院に搬送することになりますが、救急車を利用しても搬送までに一時間弱の時間が必要となります。また小児救急を含む小児医療については、当院が地域で唯一入院可能な病院となっていますが、こちらも対象となる小児が減少していることなどもあり、病院としての採算性は見込めません。

一方、埼玉県における最近の医師数の推移をみてみると、人口10万対135.5人(2006年:平成18年)であったものが、160.1人(2016年:平成28年)と10年間で人口10万人あたり24.6人増加しているものの、全国平均の240.1人(2016年)には遠く及ばず、全国最下位が続いています。数字の上での医師数は増加していますが、県内での医師の偏在化は以前よりより顕著になっており、当地域においては142.8人(2016年:平成28年)で、むしろ10年前より8.3%減少しています。県内の他地域でも医師など医療スタッフの確保が難しい地域があり、医療の縮小がやむをえなくなる医療機関も年々増加しています。

当地域の二次医療に関しては、1980年(昭和55年)より当院を含めた秩父地域内の病院が、二次救急輪番病院として平日夜間及び休日の一次・二次医療を担ってきました。これは救急車やウォークインの患者さんなど、患者の重症度に関わらず、当番日は原則診療を断らずに、全て受け入れるといった制度です。この制度のおかげで、昨今報道で見るような“患者のたらい回し”といったことは当地域内ではほとんどなく、これはとても素晴らしい制度であると感じています。しかし当初7病院が参加して行われてきたこの制度も、各病院の医師不足などのため脱退が相次ぎ、2010年4月からは参加病院数が3病院にまで減少し、その中でも当院は平日5日中3日間を担当しています。また2020年4月からは、参加病院の1つが土曜・日曜の当番を外れる事を申告してきており、他の2病院及び携わっている勤務医や病院スタッフに、より負担がかかることが懸念されており、差し迫った課題となっています。

では今後、当地域の医療をより良くするためにはどうしていったら良いか!?私見となりますが綴らせて頂きます。

第一に、夜間・休日の軽症患者の受診抑制と地元開業医にもっと積極的に二次救急医療に協力してもらうように、働きかけていくことが必要と考えます。以前に比べると、この事について地元医師会の中にも、積極的に考えてくれる先生方が増えてきている印象で、休日の一次救急に関しては、医師会休日診療所などで積極的に患者を受け入れてくれるようになっています。前述したとおり、救急輪番に参加している病院は減り続けていますが、地元医師会に加入している医療機関は73ヶ所と、かなりの医師が地域内に存在します。また二次救急に携わっている病院勤務医のほとんどが、本学卒業生や他大学からの派遣など、地元出身以外の医師という現状があります。夜間・休日受診患者の8割くらいが軽症者であり、いわゆる“コンビニ受診”が多いという現状を考えると、住民への“安易な受診を避けてもらう”啓蒙活動を行っていくのと同時に、地元出身である開業医の協力を得ることで、本来の二次救急という病院の機能が保たれるのではないかと考えられます。

そして何よりも大切なのは、魅力ある病院作りではないかと考えております。総合病院規模の大病院が無く、中規模病院がいくつか存在する当地域では、各病院がどうしても似たような内容の医療に偏りがちとなっています。地域全体での医療計画を行うため、当地域では、秩父医療協議会という行政と医師会を中心とした組織が立ち上がっていますが、十分に機能を果たし切っていない印象です。また公立病院であるが故、事務職員が数年で変わってしまう現状や、何を決めるにもいちいち市議会の承認を得なくてはならないなどといった問題もあり、こちらも継続的に病院の将来を考えていくにあたっては、改善しなくてはならない問題ではと感じています。例えば、地域内にある公立病院を集約し、広域化を進めるといったことになどにより、限られた医療資源を有効に活用し、診療科を充実させ、地域内で出来る治療を増やしていくということも一案と考えられます。医師やその他の医療関係者が勤務したくなるような病院を作ることで、ひいては地域住民にとってもより良い医療が提供出来るようになるのではと思っております。そのために、当院及び秩父地域内で勤務されている先生方、また地域外よりお手伝い頂いている卒業生などとも力を合わせて、日々の医療に取り組んでいきたいと思っています。

以上、埼玉県秩父地域における、現在の医療状況と今後の課題に関して綴らせて頂きました。
ともすれば、忙しい毎日の中で忘れてしまいがちですが、自治医科大学の建学の精神である、「医の倫理に徹し、かつ、高度な臨床的実力を有する医師を養成することを目的とし、併せて医学の進歩と、地域住民の福祉の向上を図ることを使命とする」という言葉を心に、これからも医の道を精進していきたいと考えております。

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