医学部
School of Medicine
おせっか医
香川県綾川町国民健康保険 綾上診療所(香川13期)
十枝めぐみ 香川県
養父市でのやぶ医者大賞表彰式に引き続いて行われたシンポジウムで、司会の名田庄診療所の中村伸一先生から「先生はいい意味でおせっかいですね」とおっしゃっていただきました。そこでひらめきました。中村先生が「寄りそ医」なら、私は「おせっか医」で行こうと。
このたびこのような名誉ある賞を頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。昨年、第一回のやぶ医者大賞を受賞された広島県の東條環樹先生が、全国国保地域医療学会でうれしそうに「やぶ医者大賞を頂きました」とお話されているのを聞いて、はじめは彼お得意の(?)冗談かと思ってしまいました。昨年はこの賞の存在を知らなかったもので、ご自身を謙遜されて「やぶ医者」とおっしゃっているのかと思ってしまったのです。あとでこの賞の内容をうかがってうらやましく思ったものです。
今年の夏、うちの診療所の担当課長から「せんせ、ぎりぎり年齢制限クリアするで」ということで推薦していただけることになりました。この課長は、もともと隣町の職員だった方で、今年の春から診療所の担当になられた方です。平成18年、隣町と合併した当初は、隣町にももともと国保病院があったことから、同じ町に二つも国保の診療施設は必要ないと、元隣町選出の町議会議員から何度も言われ、悔しい思いをしたこともあります。対等合併と言いながら、吸収合併に近いような力関係でしたからやむをえないところもあったかもしれませんが、その隣町の職員であった課長が、しかも、一緒に仕事をした期間があまりないにもかかわらず、私たちの診療所の活動を認めてくださり、推薦してくださるとおっしゃってくださったのが私にとってはなによりうれしかったです。
私は、平成8年に自治医大卒業医師の義務年限内の派遣で旧綾上町の国保診療所に所長として赴任しました。当初は「女医はいらん」「産休や育休やとられたら困る」というような今で言えばセクハラやマタハラに当たるような言葉をかけられたこともありますが、全国の地域医療の現場で活躍されている皆さんに追いつきたい一心で今日まで仕事を続けてきました。地域医療をがんばっている若手医師におくられるというこの賞は、応募資格が今年の4月1日現在で50歳未満ということで、私にとっては最初で最後のチャンスでした。ほかにもがんばっておられる先生方がたくさんおられるにもかかわらず私が受賞することができたのは、年齢的なものが大きかったのでは?と思っています。地元の新聞に「若手医師に送られる」という記事が載ったのを見た高校3年生の長女に(診療所に赴任してから、妊娠、出産、授乳は診療所でしていた娘です)、「半世紀も生きてきてなにが若手やねん」と毒づかれてしまい、おまけに新聞で女性医師と紹介されていたのに、インターネット上では写真を見た方から「おっさんじゃん」というご意見を頂いたり、なるほどごもっともと思ったしだいではありました。
さて冒頭に戻ります。中村先生に言われるまで、自分自身であまり意識していませんでしたが、なるほど確かに私はおせっかいだと思います。でも基本、医療っておせっかいな部分があるのではないでしょうか?症状のない人に血液検査をして「あなたは病気だから治療しなければなりません」っておせっかい以外のなにものでもないような気がするのですが。もちろん症状があって治療する、急患に手当てをするというのはおせっかいにはあたらないと思うので、そういう意味では病院の医療はおせっかいな部分が少ないかもしれませんし、地域医療はどちらかというとおせっかいな部分が多いのかもしれません。
足掛け20年、こんなに長く診療所にいることになろうとは思いませんでした。結婚してすぐ赴任して、翌年生まれたこどもがもうすぐ高校卒業ですから。で、なんでこんなに長くいることになったかというと、やっぱり楽しいからだと思います。おせっかい焼きの血がさわぐといいますか、診察室で患者さんをただ待っているのではなく、自分からいろいろなアプローチができ、その結果が目に見えるというところがなんともエキサイティングでやめられません。「診療所に医者さえいてくれればいい」という、町の人を名田庄村のあっとほーむいきいき館に連れて行って、「総合施設っていいよー」とその気にさせたのは15年前でした。今回の受賞理由となった小児生活習慣病予防の活動や、子供を対象にした体操教室の開催も、主人に言わせ101歳になる患者さんと診療所スタッフると「あんたの趣味でしょ」ということで、ほとんどボランティアに近い活動ですが、こどもに「あなたは肥満傾向があります」っておせっかい以外のなにものでもないですよね。でも運動が苦手でぽっちゃりだった子が、体操教室に参加することで運動に興味を持ってくれて、スポーツをはじめて、すーっと背が伸びてかっこよくなっていくのを間近でみられるのはなんともうれしいものです。(もちろん体操教室に来なくてもそうなったのかもしれませんけど)自動販売機でジュースを買っているこどもたちに往診車の窓から糖分のはなしをする私は、こどもたちからしてみれば、うざいおばさん以外の何者でもないでしょうが。
「小さな親切、大きなお世話」って言う言葉もありますし、ありがた迷惑ってこともありますので、ひかえめな「おせっか医」であり続けたいと思うのですが、50歳をすぎて立派なおばさんとなり、なかなかひかえめっていうのは無理かもしれません。でもひとりひとりにおせっかいを焼くことが、地域全体の大きなお世話に広がればいいと思うのはちょっと話を持って行き過ぎでしょうか?
香川県が作成した中高生向けの医学部進学ガイドブックに臨床医の例として私の一日を紹介してくれているのですが、そのガイドブックの最後のページに「お医者さんに必要なもの」というコーナーがあり、いろいろな医師がコメントを寄せています。その中で一番多い言葉は「謙虚さ」でした。この賞を頂いたことに決して慢心せず、医師として謙虚さを忘れず、これからもおせっか医であり続けたいと思います。