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厚生労働省で働く自治医大出身の医系技官 -義務終了後の新たな人生の選択肢として-

塚原太郎 徳本史郎 寺原朋裕 市川佳世子 

近畿厚生局 局長 塚原太郎 (栃木7期)
厚生労働省 医政局 地域医療計画課 徳本史郎 (大阪24期)
環境省 環境保健部 放射線健康管理担当参事官室 寺原朋裕 (宮崎25期)
厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 市川佳世子 (大阪26期)

義務年限終了後の進路の選択肢の一つとして、医系技官(医師という資格を持った国家公務員であり、主に厚生労働省(厚労省)で働く)という職があるのをご存じでしょうか。自治医大生の義務年限は長く、卒後約9年にわたって、地元の各都道府県の地域医療に情熱を注がれているかと思います。しかしながら、義務年限終了が間近となってくると、このまま地元で地域医療を続けるか、新たな可能性を模索して新天地に向かうか、悶々と悩む卒業生も少なからずおられるのではないでしょうか。現在、自治医大出身の医系技官は4人いるということもあり、医系技官について私見も交えながら紹介させていただきます。義務年限終了後の進路の選択肢の一つとして参考にしていただけると幸いです。

厚労省の霞が関の庁舎で勤務する職員は約3,500名、医系技官(霞ヶ関庁舎外も含む)は約300名(庁舎内で現在160名程度)おり、そのうち“プロパー”と言われる試験を受けて入省した者が約200名、1~2年の期間限定で大学医局や都道府県などから派遣されている“人事交流”者が約100名います。全国の医師約29万名中、約300名(約0.1%)ですので、“厚生労働省”という組織においても、“医師”という枠組みから見ても、医系技官はかなりの少数派になります。翻って、自治医大卒業生という視点から医系技官を見ても、義務終了後の自治医大生2,815名中4名であり、こちらも約0.1%のレアキャラ度です。

医系技官として働くには、前述のとおり、“プロパー”として試験を受けるか、“人事交流”として期間限定で勤務するかの2通りの選択肢がありますが(蛇足ですが、給与体系は同じです。)、プロパーの寄稿者3名は其々異なったルートで入省しています。具体的には、義務年限中から都道府県からの人事交流として厚労省で勤務し義務終了後に入省コース、義務年限後に海外留学を経てストレートに入省コース、義務年限後に大学院の院生から人事交流として厚労省で勤務しその後プロパーとなるコースです。

医系技官の主な仕事は、医系技官パンフレットには、「医系技官とは、人々の健康を守るため、医師免許・歯科医師免許を有し、専門知識をもって保健医療に関わる制度作りの中心となって活躍する技術系行政官のことです。」、「政策立案から実施に至るプロセス全てに関わります。」、「医師としての専門性と行政スキルの両方が必要です。」、「医学的な知識や現場感覚はとても役に立ちます。」と書かれています。これだけだと全くイメージがわかないかと思いますが、仕事内容は医療分野から保健・福祉分野まで幅広く、政策立案から訴訟まで多岐にわたり、一言では言い難いのが正直なところです。また、霞が関の厚労省の中だけではなく、WHOなどの国際機関、各研究機関、他省庁など様々な機関で働く機会もあります。おおよそ1~2年で異動するのですが、配置された部署により、どのような能力や経験が必要とされるかも違ってきます。自治医大卒業生は9年の地域医療で様々な経験をし、「(どんなに理不尽でも)与えられた場所で精一杯働く」という経験をしているため、柔軟に適応する力が備わっており、どの部署でも活躍できる気がします。

多くの自治医大卒以外のプロパー医系技官は、比較的若い年次で入省していますので、同期(医系技官は入省年ではなく、卒年歴でキャリアをみます)は国の行政のイロハをよく知っています。その中にあって、卒後10年近くたった後に入省することになる自治医大卒生の強みもあります。

【自治医大卒業生の強み】
① 地域の実情を知っている。医師偏在によるへき地医療問題・課題を骨の髄まで知り尽くしている
② 病院の中の医療だけでなく、地域社会という広い・俯瞰した視点で医療の問題や枠組みを考えられる
③ 他職種と一緒にリベラルに働くことに慣れている
④ 専門分野に偏らない様々な分野の問題にアンテナが立っている
⑤ 地元の都道府県と顔が見える信頼関係がある

自治医大卒業生の医系技官として、政府での議論の場に身を置くことで、地域医療の実践を通し長年抱いてきた思いを政策に具体的につなげていくことができます(もちろん様々な立場や考えの方がいる中で、すんなりとは事は運びませんが)。外からでは見えにくい政策過程に直接携わることで、どうして今、医療現場や地域医療がこうなっているのか、どういったステークホルダーがいるのか、国はどういうメッセージを現場に送っているのかなどもわかります。現場との意識や考え方の違いを理解できるようになることも、非常に面白いかと思います。

以上、アピールポイントばかりを述べてきましたが、臨床現場とは違った苦労ももちろんあります。ひとつには、働く時間のコントロールが難しいことです。基本的にはカレンダー通りの勤務なのですが、国会待機や国会議員への説明など、特に国会関連の業務は夜遅くまでかかることも多く、早朝からの仕事が突然発生することもあります。また給与に関しては、同世代の臨床医と比較すると労働時間の割にはあまり高くないかも知れません。さらに、医系技官としての専門的な仕事以外の業務も多くあります。

一方で、臨床医では味わえない体験も多くできます。所属部署にもよりますが、国際会議の出席や、最新の研究への関わり、国会での対応などです。(また、今年の春からは、許可制にはなりますが、土日に報酬有りで、医療現場で診療を行うことも可能になりました。)そのため、専門的な事を突き詰めるタイプのみではなく、好奇心や旺盛で色々やってみたいタイプの人により向いているかもしれません。

自治医大卒業生の医系技官が現在は4人と徐々に増えてきており、やはり厚労省に来ても自治医大の繋がりは大変強く、わからないこと、困ったことはよく互いに相談していますし、たまに飲みに行ったりもしています。もし、自治医大生や自治医大卒業生(義務年限内外を問わず)の方で、ほんの少しでも医系技官に興味があれば、お気軽にご連絡ください。どんなご質問にもお答えします!霞が関で一緒に働ける自治医大仲間が増え、私たち自治医大卒業生ならではの地域に根ざした経験や苦労が国全体の政策に活かせることができれば、より良い日本の医療保健福祉制度ができるのではないかと妄想しています。

厚生労働省で働く自治医大出身の医系技官

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