医学部 School of Medicine

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メッセージ リレーエッセイ

大分県の義務年内の環境の変化と私なりの地域医療活動

佐藤裕隆

佐伯市国民健康保険 丹賀診療所(大分31期)

佐藤裕隆 大分県

九州最東端の鶴御埼灯台の付近、ひたすら海岸線に車を走らせたところにある佐伯市国民健康保険丹賀診療所に赴任して、早5年が経とうとしております。当院は渡し船で15分ほどの人口100人ほどの大島の診療所との兼任業務で、週一回の通常診療と救急対応での離島診療も行っております。高齢化による患者減少もあり時は緩やかに経過しておりますが、大分県の義務年内医師の状況はかなり改革が進みました。卒業当時大分県は姫島の有床診療所に複数名と3か所のへき地診療所の派遣がありましたが、民間への業務委託が進み、現在姫島村診療所と当院の2カ所となりました。当院も委託の話が噂されており、義務年内の一人診療所派遣として最後を勤める予定です。

地域中核病院での勤務でも変化が出ています。私が卒業した時の大分県の地域医療の状況は医局人事崩壊のあおりを受けて、まさに危機的でした。卒業年度では、公立おがた総合病院(現豊後大野市民病院)の内科常勤医師が全員撤退するという状況が発生し、急きょ義務年内の卒業医師で病院を支えることになりました。その他の派遣先地域中核病院も相次ぐ撤退や辞職などがあり、3年目以降に配属になるどの病院にいっても、指導医はおろか内科医師自体をほぼ卒業生(義務年外を含む)のみで構成する状況にあり、義務年内の内科以外を専門としたい先生も一般総合内科と並行して日々の診療を行っておりました。

私自身も初期研修修了後は、公立おがた総合病院へ配属となり、常勤医師1名、義務年内後期の医師1名、3年目の医師2名の計4人体制と外科2名、整形外科3名、小児科1名で一般病床100床ほどと救急当直を診るのですが、隣の竹田市の中核病院が当時救急医療を休止しており、かなり広域の救急車の受け入れがありました。にもかかわらず、重症患者について3次医療機関はなかなか引き受けてくれず、何から何まで受け持って診るような状況でした。常勤医師は保健所勤務から転属されたばかりで指導医としての役割はされておらず、危ない橋を渡りながら恐る恐る診療を続ける毎日で、今でも忘れられないエピソードがあります。赴任後1か月と経たない際にみた50代の間質性肺炎の患者で、呼吸状態が安定せず気管挿管し3次医療機関に相談するもすべて受け入れてもらえず、近郊の義務年内の呼吸器内科を専門にしている甲斐誠司先生(27期)の指導を受けながら治療をしたケースです。わざわざ当院へ足繁く通って頂き指導して頂いたこと、また随時相談や全身管理を手伝っていただいた同僚医師やスタッフにも感謝の気持ちで一杯です。県人会への恩義を感じると共に、大分県の医療体制の不備に喘いだものです。

現在同院は大分県立三重病院と合併し豊後大野市民病院となり、その後1984年より自治医大より大分県の卒業生のためにわざわざ赴任し、義務年内の先生を代々指導していただいた坪山明寛先生が院長職を退職し、大分大学医学部卒業の外科医師へ交代したこと、また同大学の地域医療学講座の懇意もあり医師の派遣状況および指導体制は改善してきております。

他の中核病院でも院長が医師を引き連れて総辞職し、卒業生を中心に地域医療に貢献している関愛会佐賀関病院の先生方や義務年内外の先生で代診をするなどのケースもあり、危機的状況は続いておりましたが、現在は若干ながら改善の兆しが見えている状態です。

勤務体制以外でも改善が見られています。私が卒業した当初、基本的に後期研修は義務年外扱いで、かつ大分県立病院での勤務が基本とされ、その他の病院へは休職、給与減額、原則アルバイト禁止という形で研修を受ける状況でした。また義務年後にも明確なポストがなく、地域中核病院か診療所に残らないのであれば自分で再就職先を探すという状況でした。度重なる県との協議の結果、現在は後期研修も義務年内にカウントされるようになり、また研修先も自治医大など拡大しております。義務年内での内科以外の科での派遣も少しずつですが出てきており、また今まで無縁であった大分大学も、地域枠で入学した卒後医師の誕生による人員増加の期待や、新内科専門医制度に対して自治医大卒業生専用のプログラムを用意してくれるなど、多方面で配慮して頂いております。義務年後についても、大分県立病院に自治医大卒業生のために総合診療医枠のポストが作られました。私自身はそろそろ義務年も終わりですが、いつか後輩医師が専門医取得において、他の医師と比べ不利にならないことを、また危ない橋を渡らなくて済むよう切に祈っております。また他県でも義務年内の取り扱いが厳しいところがあれば、大分県の事例を参考例に出していただき県と協議していただけると幸いです。

最後に私の現在の地域医療活動ですが、通常診療については割愛します。診療外の業務として、佐伯市医師会の高齢化による人手不足もあり、できる限りの住民健診業務や介護認定審査会の出務をしています。また佐伯市市役所の産業医を兼任していますが、休職者への対応の協議や今年度より始まったストレスチェック制度の義務化に伴う高ストレス者の面談等、診療外活動が増えてきました。今年度は面談数が100件に届きそうな勢いですが、これもまた一つの地域医療として現在は日々面談スキルの研鑽に努めていきたいと考えています。

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