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小児・先天性心臓血管外科【アニュアルレポート】

1.スタッフ(平成29年4月1日現在)

科長 (教授) 河田 政明
医員 (助教) 吉積  功
(病院助教) 鵜垣 伸也

2.診療科の特徴

子ども医療センター開設に伴いその中心として整備されてきた小児心臓血管外科は、小児だけでなく成人先天性心疾患の診療にも積極的に取り組む必要性から平成20年4月に組織された"成人先天性心疾患センター"での重症疾患や妊娠・出産希望例への手術治療、外来診療も担当し、名称も"小児・先天性心臓血管外科"と改称され、活動範囲を拡大してきた。小児領域においては小児科(循環器グループ)、NICU、小児手術・集中治療部、PICUなどと密な連携を図り、院内だけでなく、近隣の大学附属病院や基幹病院をはじめとする院外施設や開業医の先生方とも連携しながら手術症例数の増加を得てきた。成人領域では循環器内科との連携は密度を増している。劇症型心筋炎、重症肺炎など高度の循環呼吸不全の例で、各種薬剤や人工呼吸だけでなく機械的循環呼吸補助装置(ECMO:extracorporeal membraneoxygenation)による集中治療が必要となる場合に、臨床工学部と共に中心となって各科と協力し、ECMO治療の担当をしてきた。県内では唯一の小児でのECMO治療可能な施設として他院からの紹介、治療依頼も経験している。劇症型心筋炎、重症免疫不全に伴った重症呼吸不全例も救命し、劇症型心筋炎例はそれぞれ健常児と同等の日常生活、運動能を得ている。心臓手術では6割を超える症例が新生児、乳児例となり、この種の専門施設としての役割を果たしている。対象疾患も新生児期からの計画的段階的修復を必要とする複合疾患の比率が増加している。また他施設の患者さんのセカンドオピニオン受診や当院の患者さんの他院へのセカンドオピニオン希望についても積極的に対応している。さらに情報提供をいただいた他院入院中の重症疾患の患者さんについては小児科と協力して専門的な立場での訪問診療も行い、紹介元のスタッフとの連携を図り、家族との情報共有にも参加し、治療方針の決定や家族との対応の援助なども積極的に行なっている。2012年末に施設認定・術者認定を得た動脈管開存、心房中隔欠損に対するAmplatzer閉鎖栓を用いるカテーテル治療の導入(動脈管開存7例、心房中隔欠損34例)によりこれらの疾患の手術例数は当初若干減少が見られたが、これらの治療目的の症例の紹介が増えると、手術例数はその後再度増加に転じている。またこの治療の適応については小児科・循環器内科と合同で適応判定を行い、安全な治療の実施に協力し、カテーテル治療適応逸脱例や合併疾患を有する例では外科的対応を行っている。

専門医

外科専門医 吉積  功・鵜垣 伸也
心臓血管外科専門医 吉積  功

3.診療実績・クリニカルインディケーター

1)新来患者数・再来患者数・紹介率

新来患者数 8人
再来患者数 850人
紹介率 66.7%

2)入院患者数

136名(入院延べ数2,931人)

3-1)手術症例病名別件数

115手術(成人心臓血管外科で行われた先天性心疾患手術を加えた先天性心疾患全体では116手術、循環器センター病床を利用した成人先天性心疾患手術は16手術)

動脈管開存(未熟児動脈管含む) 1
大動脈弓離断 1
血管輪(重複大動脈弓) 2
純型肺動脈閉鎖 3
純型肺動脈狭窄 4
総肺静脈還流異常 3
部分肺静脈還流異常 1
心房中隔欠損 11
房室中隔欠損(心内膜床欠損)(不完全型) 1
房室中隔欠損(心内膜床欠損)(完全型) 4
心室中隔欠損 36
右室二腔 1
ファロー四徴 8
ファロー四徴+肺動脈閉鎖(極型) 3
両大血管右室起始(VSD型・ファロー型) 3
両大血管右室起始(大血管転位型 2
完全大血管転位 2
修正大血管転位 1
孤立性房室錯位 1
Ebstein 1
三尖弁閉鎖 3
単心室 7
房室結合交差症 1
左心低形成症候群 5
先天性大動脈弁狭窄(カテーテル治療後) 2
肺動脈弁狭窄+三尖弁狭窄/逆流 1
ペースメーカー植え込み術・交換術 3
収縮性心膜炎 1

など

3-2)手術術式による分類と件数

体/肺動脈(ブレロック-タウシッヒ)短絡術 8
肺動脈絞扼 5
両方向性グレン吻合術 8
フォンタン・TCPC手術 5
肺動脈再建・形成 13
右室流出路形成 4
ラステリ手術 2
動脈スイッチ手術 2
ノーウッド手術 1
大動脈弓延長(気管狭窄) 1
冠状動脈形成 1
僧帽弁置換 1
三尖弁置換 1
三尖弁輪形成 7
肺動脈弁置換 3
大動脈弁形成 2

など
非開心術32例、開心術84例であった。

3-3)年齢別分類と件数

未熟児・新生児(1ヶ月未満) 27
乳児(1-12ヶ月) 38
1-20歳 35
20歳以降 16

で116件中65件(56%)が1歳未満例であった。未熟児・新生児症例は昨年に比べ倍増した。

*成人先天性心疾患手術例は原則として中央手術室・循環器センター内の病床・CCUを使用し手術、術前後の管理を行っている。2014年は14~67歳の11例であったが"成人先天性心疾患"の認識の拡大・定着に伴い2015年には16例と増加が見られた。大学病院併設型子ども医療センターとしての本施設の特色が活かされた。

3-4)合併症やその他の処置

二期的胸骨閉鎖 12
心タンポナーデ・術後出血 7
創部感染・離開・胸骨形成 2
機械的循環・呼吸補助装置装着・交換あるいは離脱 1
心カテ検査時の血管確保など 2

など

4)死亡例

手術死亡 0
病院死亡 0
*剖検 なし

●成人先天性心疾患(循環器センターに入院)では(成人)心臓血管外科との協力の下に24~68歳の16例(初回手術11例、再手術5例)の手術治療が行われたが、上記のうち複合疾患に対する再手術例を中心に14例を担当した。
心房中隔欠損(カテーテル治療逸脱)9例、小児期および成人期の房室中隔欠損修復術後の僧帽弁狭窄および洞機能不全1例、小児期ファロー四徴修復術後の遺残肺動脈弁逆流(+左肺動脈閉塞1)2例、労作時低酸素血症を示すエプスタイン病1例 、肺動脈弁狭窄+三尖弁狭窄/逆流による高度心不全1例、小児期姑息的治療のみで経過していた機能的単心室1例などであった。女性例では今後の妊娠/出産希望を背景とした手術治療が2例に行われた。
*2013年から導入された心房中隔欠損に対するAmplatzer閉鎖栓を用いたカテーテル治療(11例)のため、形態や金属アレルギーによる適応逸脱例が手術適応となった。

手術数は当科での手術が始まった2005年3月から年間手術数は29、57、94、103、107と増加が見られた後、2010年は88手術と減少したが、2011年には116手術となった後、2012年109手術、2013年106手術、2014年106手術と経過後、2015年116手術となった。手術例では特に重症例の新生児・乳児開心術の増加が続いている。
*その他、PICU内で実施する手術に準じた(緊急的)処置数も増加している(2015年23手術)。

5)主な処置・検査

人工心肺装置を用いた心臓手術(開心術)は当科の治療の中心をなしており、2015年には開設以来700例を越えることとなった。新生児例、低体重例でもその安全性は飛躍的に向上し、臨床工学技士スタッフ、麻酔科スタッフとの密な連携や学内・学外での研修の賜物といえる。特に最近注目されている左心低形成症候群や大動脈弓の異常を示す例では麻酔科・小児科とも連携して術前からの先進的なCO2・N2などを用いた呼吸ガス管理を導入し、術前状態の安定化を図り、術中の血液ガス管理(pH-stat法、α-stat法)を用いた超低体温循環停止法を併用するなど安全性の向上を図っている。また術後急性期管理の中心を担うPICU看護師のこれらの治療に対する精通だけでなく、積極的な貢献は患者さんだけでなく家族の満足度につながっている。

機械的循環呼吸補助装置(ECMO:extracorporealmembrane oxygenation)による生命維持、回復援助治療:成人での経皮的心肺補助装置(PCPS:percutaneouscardiopulmonary support)に相当。新生児、乳幼児、学童あるいは成人までを対象とする。(PCPSが循環不全のみを対象とするのに対し、ECMOは重症肺炎などによる呼吸不全も治療の対象とする。):本治療は人工心肺装置と同様、臨床工学技士の全面的協力で行われている。重症肺高血圧や肺動脈低形成などで手術適応の有無の判定や術後経過に難渋が予想される例では積極的に肺生検を行い、心カテーテル検査での機能的診断に加え、肺血管病理組織診断を東北大学病院チームと連携して行い、適切な手術、安全な術後管理や適切な予後推定、家族への説明などに役立てている。

6)カンファレンスなど

  1. 小児・先天性心臓血管外科でのカンファレンス(毎日)
  2. 小児科循環器グループ・成人先天性心疾患グループとのカンファレンス(カテーテル検査症例・手術症例を中心に)(院外からの参加あり)(水曜日18:00~) 
  3. 成人心臓血管外科とのカンファレンス(火07:45~、金07:45~)(術前・術後)
  4. PICU回診(毎日08:30~、17:30~) 入室患者の経過チェック・方針確認など医師・看護士・臨床工学技士などの参加により意思統一のされた治療の継続を図っている。その他、院内外の重症患者の情報確認など。
    その他病棟カンファレンス・M&Mカンファレンスなど(適宜)
  5. 心臓カンファレンス(成人心臓血管外科・循環器内科・小児科循環器グループと合同)(木07:45~)
  6. 胎児心エコー診断に基づく周産期カンファレンス(産科・NICU・小児科循環器グループと共に)(適宜)
  7. 成人先天性心疾患センターカンファレンス(毎週水17:30~:小児科・循環器内科と共に、小児先天性心疾患カンファレンス(2)の前に)
  8. 院外からの症例検討依頼に対するカンファレンス・手術支援・指導(適宜)
  9. 看護師・MEスタッフなどとの勉強会(適宜)

4.2017年の目標・事業計画等

手術症例数の増加・スタッフの経験例数の増加に伴う量的・質的向上:現在、3A一般病床と共に、PICU8床を臨床活動の基盤としているが、子ども医療センター開設後の紹介・受診患者数の増加、低年齢化、重症化は著しく、産科・小児科での胎児エコー診断技術の向上もあって、特にPICUの病床の不足が大きな問題となり、一部ではPICU満床のため定期予定手術が中止・延期とせざるを得ない事態も見られた。また院内全体の問題ともなっている手術数の絶対的増加も当科についても当てはまり、現在の週2日の手術日ではこうした緊急性を要する新生児、乳児の患者さんたちへの対応に問題を生じる場合もある。非体外循環使用例や軽症例では1日に2例の手術もPICU病床が可能な限り実施している。当初新生児・乳児期早期の先天性心疾患周術期管理に対応することを主目的に8床で計画・開設されたPICUであり、ようやくフル稼働となったが、さらに重症例や長期管理を要する例が増加しているのが現状である。スタッフ数増員、診療技術や看護技術の向上、手術枠の増大を図り、安全で良質な医療の提供を目指したい。

<小児・先天性心臓血管外科と成人先天性心疾患センター>

小児・先天性心臓血管外科(小児心疾患および成人の先天性心疾患全般の外科治療を対象とする)として担当範囲の拡大を明確にし、成人先天性心疾患センターでも中心的役割を担っている。これにより院内・院外からの紹介や患者さんの受診をより円滑・容易にでき、長期的展望に立った医療が提供できるものと考えられる。成人先天性心疾患センターは学内だけでなく、周辺医療機関からの紹介などにも積極的に対応し、従来担当部署が不明確なままであったこの領域の再整備を行い、北関東地域での中心的立場を担えるよう活動する。全国では34施設前後がこの担当施設としての条件を満たしているとされ、自治医科大学病院もその条件を満たし、今後の積極的貢献が期待されている。これにより(多くの小児病院がかかえるキャリーオーバー例への対応もより円滑となり、)「大学病院併設型」として設立されたとちぎ子ども医療センターの本来の役割ができるものと考えられる。カンファレンスは外部一般からの参加も受け付け、教育、啓蒙的役割にも配慮して行きたい。さらに循環器内科・小児科循環器グループなどとも協力して学外での啓蒙活動も行うことを目標としている。動脈管開存につぎ施設認定が得られた心房中隔欠損に対するAmplatzer閉鎖栓によるカテーテル治療も症例数が順調に増加し、より患者さんの要望に対応できる診療体制の整備が進んでいる。

5.過去実績