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小児脳神経外科【アニュアルレポート】

1.スタッフ(2022年4月1日現在)

科長(学内教授) 五味  玲
臨床助教 小熊 啓文

2.診療科の特徴

脳腫瘍、先天奇形(二分脊椎、水頭症など)、脳血管障害(もやもや病など)、外傷、てんかん・痙直などの機能的疾患など、小児脳神経外科疾患全てをまんべんなく扱っている。五味、小熊にくわえ、他施設の脳神経外科専攻医が交代で小児研修に来ており、3人体制となっている。

①頭のかたち外来

2021年の大きな出来事は「頭のかたち外来」の開設であった。これはいわゆる「向き癖」などによる頭部変形に対して、ヘルメット矯正治療を行うもので、高額な自費診療となる。

北関東では初の開設である。東京の施設や業者からは、北関東圏からも東京に受診する患者さんが多いとは聞いていたが、実際どの程度のニーズかわからなかった。

6月下旬から開始し、当初は業者のサイトで知って受診する方が主であったが、9月9日に下野新聞で紹介されてから急増し、2021年12月までに51名の方のヘルメットを作成した。栃木県内、茨城県、群馬県はもちろん埼玉県、福島県、千葉県からの患者さんもいる。

受診は紹介を原則としているが、「頭のかたち外来」の予約が取れず通常の外来に初診で受診される方も多い。ただ希望者全員にヘルメット矯正治療をしているわけではない。初診時の月齢を基本的には7か月未満としており、また軽症例ではあまりお勧めしていない。にもかかわらず、高額な自費でのヘルメット矯正治療を希望される方はいる。

治療の流れは①初診(保険診療)で診断、②頭部のスキャン(この際に治療費一括納入)、③スキャンの2週間後にヘルメット完成し治療開始、④4週ごとにクッションの交換、⑤装着後約6か月で治療終了(クッションの交換は5−6回)となる。

つまり初診から治療開始まで、最短2週、通常3−4週になるので、初診時に生後7か月でも治療開始時点で生後8か月以降になる。できれば治療開始が生後6か月未満が理想である。

スキャンやクッションの張り替えは業者の方にお願いしている。これが2週毎のため治療中の患者さんの半数がその日に集中する。その結果、金曜日の午後だけで予約患者数が40名以上という日もあり、2診でやっていても18時までかかるという問題が生じている。「働き方改革」の上では問題である。

今後治療終了者も増えて、治療効果の検討から治療適応の再検討なども必要になってくると考えている。

②脳脊髄腫瘍

当科での手術、放射線治療部での治療、小児科での化学療法と、総合的な治療体制を確立して治療に当たっている。

2021年は腫瘍関連の手術数は摘出術15例、内視鏡生検1例、定位的生検1例と非常に多かった。初発例は14例。小脳膠芽腫2例、星細胞腫(視床2例、脊髄1例)、毛様細胞性星細胞腫(視神経1例、小脳1例)、橋神経膠腫、神経節膠腫、髄芽腫、鞍上部胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、ラブドイド髄膜腫、頭蓋骨ランゲルハンス細胞組織球症であった。再発例は5例で、上衣腫、悪性星芽腫、視床膠芽腫、悪性末梢神経鞘腫、延髄上位頚髄神経膠腫であった。

AYA世代の患者の治療をどこで誰が担当するかは難しい問題だが、高校生以上の3症例はいずれも小児脳神経外科担当で、成人病棟で治療を行った。死亡例は4例。1例は髄芽腫治療後12年で発症した放射線誘発小脳膠芽腫であった。この例を含む膠芽腫3例は、小児緩和ケアチームの地域連携体制のもと在宅医と連携し、在宅でのお看取りとなった。1例は長期入院治療中であった髄芽腫治療後の方で、剖検をさせていただいた。

化学療法は小児脳神経外科単独で行ったものとしては、入院では膠芽腫に対するベバシツマブ投与と経口TMZ療法のみで、それ以外は小児科に転科し、血液腫瘍班で治療していただいた。外来ではベバシツマブやTMZの維持療法、再発上衣腫・髄芽腫に対する経口VP-16療法、再発髄芽腫に対するMTX髄注療法などを行っている。再発例のQOL維持に寄与している。

放射線治療についても、放射線治療部と週1回カンファレンスを行い、綿密な連携体制のもと施行している。積極的にIMRTを用いて、正常組織への照射量低減を試みている。定位放射線治療が必要な場合は、宇都宮セントラルクリニックでのサイバーナイフ治療としている。

脳腫瘍の遺伝子検索が発達し、診断・治療に大きく寄与している。2020年からがんゲノムプロファイリング検査(パネル検査)が保険収載され、2021年も2例施行し、脊髄星細胞腫では治療につながるFGFR1変異が検出され、視床神経膠腫では予後不良因子のヒストン変異がないことが示された。JCCG(日本小児がん研究グループ)の固形腫瘍観察研究にでも遺伝子検索をされており、2020年12月手術の病理診断困難例が、メチル化解析により悪性末梢神経鞘腫と判明した例があった。

③先天性疾患(二分脊椎、水頭症など)

脊髄髄膜瘤症例がここ数年来減少傾向であったが、2021年は3例の修復術があった。いずれも産婦人科で出生前診断されており、出生前に外来で十分説明を行い、小児科NICUや形成外科との連携でスムーズに治療できた。

このうち2例は水頭症に対し、シャント手術も施行した。シャントは2020年から抗菌薬入りのバクティシールを使用できるようになり、それ以降感染例はない。乳幼児の新規シャントはこの2件のみであった。

係留解除手術8例は、全例初発の潜在性二分脊椎であった。内訳は円錐部脂肪腫4例、終糸脂肪腫・終糸肥厚症4例である。2008年に開設した二分脊椎外来も14年目となった。小児脳神経外科、小児泌尿器科、小児整形外科、小児外科、小児科などの多科が協力して診療を行っており、治療方針の決定も毎月の二分脊椎カンファレンスで検討している。

頭蓋骨縫合早期癒合症の手術は、主科は形成外科であるが、手術は全例小児脳神経外科との共同手術で行われている。2021年はMCDO法を7例共同で手術を行った。

ヘルメット矯正治療が開始されたことで、2021年から縫合切除術+ヘルメット治療による頭蓋縫合早期融合症の治療が可能になり、矢状縫合早期癒合症の2例でこの治療を施行した。MCDO治療ができない生後3−4か月の乳児でも可能であり、治療の選択肢の幅が拡がった。

その他の先天性疾患では、くも膜嚢胞に対する内視鏡治療やシャント術、Chiari奇形の大後頭孔減圧術、脳瘤の切除などを施行した。

④脳血管障害

もやもや病のバイパス手術は5例で、間接血行再建術を2例、直接&間接血行再建術を3例に施行した。年齢や病態によって選択しているが、低年齢での直接血行再建術の成績も向上してきている。

脳動静脈奇形は2例であった。1例は2013年から経過をみている巨大脳動静脈奇形で、反復する強い頭痛のため治療を行うこととし、摘出を目指して段階的な血管内治療による塞栓術を2回施行した。1例は11歳出血発症の重症例で血腫と脳動静脈奇形を摘出したが救命できなかった。

⑤頭部外傷

頭部外傷の手術例は1例で、以前からくも膜嚢胞と診断されていた14歳男子が、サッカーでボールが当たったことをきっかけに慢性硬膜下血腫となった例のみであった。

社会的に虐待が問題となっているが、本年は当科では対象となる重症例はなかった。0歳のけいれん発症の急性硬膜下血腫例があったが、眼底出血はなく虐待と断定する根拠がなかった。

⑥機能的疾患(てんかん、痙直)

2016年から小児のてんかん手術が本格的に開始され、当院小児科や他施設からの紹介例も増加してきている。本年も3例の手術を行った。3例とも難治性てんかんで、迷走神経刺激装置植込術を施行した。当院が全国8施設のてんかん拠点病院であることもあり今後も症例が増加すると考えている。

また痙直・痙性麻痺に対する髄腔内バクロフェン持続髄注ポンプも埋込術を1例、ポンプ交換術を1例施行した。

・認定施設

日本小児血液・がん専門医研修施設

・専門医

日本脳神経外科学会専門医 五味  玲
小熊 啓文
日本小児神経外科学会認定医 五味  玲
小熊 啓文
日本神経内視鏡学会技術認定医 五味  玲
日本がん治療認定医機構がん治療認定医 五味  玲

3.診療実績・クリニカルインディケーター

1)新来患者数・再来患者数・紹介率

新来患者数 196人
再来患者数 1,465人
紹介率 102.7%

2)入院患者数 (病名別)

病名 患者数
頭部外傷 11
脳脊髄腫瘍 22
二分脊椎 13
水頭症 2
脳先天性疾患 8
機能(てんかん・痙直など) 5
血管(もやもや病・AVMなど) 14
その他 6
合計 81

3−1)手術症例病名別件数

病名 症例数
脳脊髄腫瘍 20
頭蓋・脳先天性疾患 15
二分脊椎 11
水頭症 7
もやもや病 5
脳動静脈奇形 3
てんかん 3
頭部外傷 1
感染 1
その他 13
合計 79

3−2)手術術式別件数・術後合併症件数

病名 症例数 合併症件数 再手術症例数
開頭腫瘍摘出術 15 0 0
二分脊椎手術(係留解除術) 11 0 0
脳室腹腔シャント術 8 0 0
血行再建術 5 0 0
MCDO 7 0 0
迷走神経刺激装置植込術 3 0 0
その他 30 0 0
合計 79 0 0

4)化学療法症例病名別・数

病名 症例数
視床膠芽腫 1
小脳膠芽腫 2
悪性星芽腫 1
胚細胞腫瘍 1
髄芽腫 2
上衣腫 1

(小児科転科で施行したものも含む)

5)放射線療法症例・数

病名 症例数
視床膠芽腫 1
小脳膠芽腫 2
橋神経膠腫 1
胚細胞腫瘍 1
悪性末梢神経鞘腫 1

6)その他の療法(免疫療法)症例・数

なし

7)悪性腫瘍の疾患別・臨床進行期別治療成績

橋神経膠腫 平均生存期間9.7ヶ月
髄芽腫 5年生存率 83%

8)死亡症例・死因・剖検数・剖検率

死亡症例 脳腫瘍4例(髄芽腫1例、膠芽腫3例)
膠芽腫3例は在宅で死亡
脳動静脈奇形1例
剖検数 1例(髄芽腫)
剖検数 50%(院内死亡例中)

9)主な処置・検査

特になし

10)カンファランス症例

二分脊椎カンファレンス
第一水曜日(祝日は休み)

2月3日 症例検討会
3月3日 症例検討会
4月7日 症例検討会
6月2日 症例検討会
7月7日 症例検討会
第38回二分脊椎研究会予演会
9月1日 症例検討会
10月6日 症例検討会
12月11日 症例検討会

その他は脳神経外科と同様に行っている。
小児緩和ケアチームカンファレンス(隔週火曜日)
虐待についてのカンファレンス:適宜開催

11)キャンサーボード

小児はキャンサーボード対象外
子ども医療センター内で対象症例毎に検討(画像診断部・放射線治療部・小児科等と)

4.2022年の目標・事業計画等

  • JCCG脳腫瘍グループとしての共同研究の継続。
  • 様々な臨床研究を計画・推進する。

5.過去実績