小児脳神経外科【アニュアルレポート】
1.スタッフ(2023年4月1日現在)
科長(学内教授) | 五味 玲 |
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臨床助教 | 小熊 啓文 |
2.診療科の特徴
脳腫瘍、先天奇形(二分脊椎、水頭症など)、脳血管障害(もやもや病など)、外傷、てんかん・痙直などの機能的疾患など、小児脳神経外科疾患全てをまんべんなく扱っている。五味、小熊にくわえ、脳神経外科専攻医が交代で小児研修に来ており、3人体制となっている。
①頭のかたち外来
2021年に開設した「頭のかたち外来」は「向き癖」などによる頭部変形に対して、ヘルメット矯正治療を行うもので、高額な自費診療となるが、数多くの患者さんが紹介で、もしくはご自分で受診された。
2021年6月の開設から2022年12月までに「頭のかたち外来」に300名近く受診されており、2022年は87名の頭蓋形状矯正ヘルメット作成を行い治療した。患者さんのほとんどは栃木県内からであるが、茨城県、群馬県はもちろん埼玉県、福島県、千葉県、東京都からの患者さんもいた。
受診は紹介を原則としている。希望者全員にヘルメット矯正治療をしているわけではなく、開始時の月齢が7か月以上の場合や、軽症例ではあまりお勧めしていない。にもかかわらず、高額な自費でのヘルメット矯正治療を希望される方はいる。
治療の流れは①初診(保険診療)で診断、②頭部のスキャン(この際に治療費一括納入)、③スキャンの2週間後にヘルメット完成し治療開始、④4週ごとにクッションの交換、⑤装着後約6か月で治療終了(クッションの交換は5−6回)となる。
つまり初診から治療開始まで、最短2週、通常3−4週になるので、初診時に生後6か月でも治療開始時点で生後7か月以降になる。できれば治療開始が生後4-5か月が理想である。
スキャンやクッションの張り替えは業者の方にお願いしている。これが2週毎のため治療中の患者さんの半数がその日に集中する。その結果、金曜日の午後だけで予約患者数が40名以上という日もあり、2診でやっていても18時までかかるという問題が生じていた。
しかし、ヘルメットについて、2022年4月からそれまでの「アイメット」にかわり、新しく「クルム」を導入した。作成や治療の過程・治療効果はほぼ同様だが、クッションを刷新し、マジックテープで固定し取り外しが容易になり、水洗いも可能となった。張り替え時間も短縮され、外来時間の短縮にもつながった。
②脳脊髄腫瘍
当科での手術、放射線治療部での治療、小児科での化学療法と、総合的な治療体制を確立して治療に当たっている。
2022年は腫瘍関連の手術数は摘出術11例17手術、内視鏡生検1例、定位的生検2例と多かった。初発例は9例。小脳毛様細胞性星細胞腫、脊髄星細胞腫、側頭葉低悪性度神経膠腫、橋神経膠腫、髄芽腫、松果体胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、第三脳室異型髄膜腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍であった。再発例は3例で、上衣腫2例とラブドイド髄膜腫であった。腫瘍を疑い定位的生検を施行した2例では、いずれも非腫瘍性病変(多発性硬化症などの脱髄疾患)であり、小児科での治療に移行した。
AYA世代の患者の治療をどこで誰が担当するかは難しい問題だが、高校生以上の6症例はいずれも小児脳神経外科担当で、成人病棟で治療を行った。
死亡例は2例。1例は上衣腫再発で手術するも脳幹部の腫瘍増大をきたした。もう1例は橋神経膠腫で、この2例とも小児緩和ケアチームの地域連携体制のもと在宅医と連携し、在宅でのお看取りとなった。
入院での化学療法は4例で、高校生の毛様細胞性星細胞腫のCBDCA+VCR治療は小児脳神経外科単独で行ったが、それ以外は小児科に転科し、血液腫瘍班で治療していただいた。髄芽腫2例(うち1例は2021年手術例)は、JCCG(日本小児がん研究グループ)の髄芽腫臨床試験に登録し、治療を行った。外来での化学療法は、橋神経膠腫のベバシツマブ治療、神経膠腫に対するweekly VBL療法、再発上衣腫に対する経口VP-16療法などを行った。増悪・再発例におけるQOL維持に寄与している。
放射線治療についても、放射線治療部と週1回カンファレンスを行い、綿密な連携体制のもと施行している。積極的にIMRTを用いて、正常組織への照射量低減を試みている。定位放射線治療が必要な場合は、宇都宮セントラルクリニックでのサイバーナイフ治療としている。
脳腫瘍の遺伝子検索が発達し、診断・治療に大きく寄与している。今年はがんゲノムプロファイリング検査(パネル検査)を施行した例はなかったが、JCCG(日本小児がん研究グループ)の固形腫瘍観察研究における遺伝子検索には8例提出した。髄芽腫2例は前述のように4型分類を行って臨床試験に登録した。また、中央病理診断や遺伝子検索で診断が変更となった例が2例あった。
③先天性疾患(二分脊椎、水頭症など)
脊髄髄膜瘤症例は1例修復術があった。産婦人科で出生前診断されており、かなり大きく脊柱変形も強い症例であったが、出生前に外来で十分説明を行い、小児科NICUや形成外科とも連携し、術前検討も十分行うことができて、スムーズに治療できた。この1例は水頭症に対し修復術と同時シャント手術を施行した。
2022年は新しくProGAVシャントシステムを導入した。これまでシャントシステムは、可変式はコッドマンハキムを用いていたが、子ども医療センターのMRIも3Tになることを契機に、MRIで設定圧が変わらないシャントシステムを導入した。ただカテーテルも含むセットでは抗菌薬入りのものはない。やはり感染の懸念があるためシステム構成を検討している。乳幼児の新規シャントはこの他に1例のみであった。また、20年ほど前に留置したソフィーシステムの2例について、プログラミングができる人も少なくなったため、差圧式への交換を行った。
係留解除手術10例中、8例が初発の潜在性二分脊椎であった。内訳は円錐部脂肪腫5例、終糸脂肪腫2例、類皮腫1例である。再係留解除は2例で、うち1例はバングラデシュでの脊髄髄膜瘤術後の再係留であり、脊髄空洞症もあったためSSシャントも行った。2008年に開設した二分脊椎外来も15年目となった。小児脳神経外科、小児泌尿器科、小児整形外科、小児外科、小児科などの多科が協力して診療を行っており、治療方針の決定も毎月の二分脊椎カンファレンスで検討している。
頭蓋骨縫合早期癒合症の手術は、主科は形成外科であるが、手術は全例小児脳神経外科との共同手術で行われている。2022年はMCDO法を2例、従来法を1例共同で手術を行った。
その他の先天性疾患では、くも膜嚢胞に対する内視鏡治療、Chiari奇形の大後頭孔減圧術などを施行した。
④脳血管障害
もやもや病のバイパス手術は4例で、3例が直接&間接血行再建術で、1例は術後症例で間接血行再建術のみであった。年齢や病態によって間接法のみとどちらにするか選択しているが、低年齢での直接血行再建術の成績も向上してきている。
内頸動脈解離により左大脳の血行動態学的脳梗塞が経時的に進行した例で、脳梗塞急性期での浅側頭動脈−中大脳動脈バイパス術を行い、著効した。
脳動静脈奇形は2例であった。1例は2013年から経過をみている巨大脳動静脈奇形で、反復する強い頭痛のため治療を行うこととし、摘出を目指して段階的な血管内治療による塞栓術を3回施行し、2023年に摘出する。1例は14歳出血発症の重症例で血腫のみ摘出し、軽度の左麻痺のみで退院できたが、脳動静脈奇形自体は未熟でサイズも大きく摘出はできない。ガンマナイフ治療が可能か、他施設に問い合わせている。
非常に特殊な例で、胎児診断された静脈洞交会部分の硬膜動静脈瘻の例があった。血管内治療部と綿密な相談の上、帝王切開後すぐに臍帯動脈を確保し、日齢4で血管内治療を行った。流入動脈の塞栓などを行い、その結果心不全も改善し無事退院できた。
⑤頭部外傷
頭部外傷の手術例は、開放陥没骨折1例と、虐待例の慢性硬膜下血腫1例(2件)であった。他の虐待例では、手術対象にならなかったが、後頭蓋窩の広範な腫脹を示した死亡例があった(担当科は小児科)。家庭内での頭部外傷例では、常に虐待を想定し、小児科と共同で対応している。
⑥機能的疾患(てんかん、痙直)
2016年から小児のてんかん手術が本格的に開始され、てんかん拠点病院であることもあり、当院小児科や他施設からの紹介例も増加してきている。2022年も4例(5件)の手術を行った。これらは、成人のてんかんチームが手術を担当し、小児脳神経外科で管理をサポートしている。特に本年は新たにロボットによるSEEG(定位的頭蓋内電極埋込術)が2例行われた。そのうち1例で焦点診断ののち、焦点切除がおこなわれた。その他では、皮質形成異常の焦点切除術1例と、迷走神経刺激装置植込術が1例施行された。
今年は痙直に対する手術はなかった。
・認定施設
日本小児血液・がん専門医研修施設
・専門医
日本脳神経外科学会専門医 | 五味 玲 |
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小熊 啓文 | |
日本小児神経外科学会認定医 | 五味 玲 |
小熊 啓文 | |
日本神経内視鏡学会技術認定医 | 五味 玲 |
日本がん治療認定医機構がん治療認定医 | 五味 玲 |
3.診療実績・クリニカルインディケーター
1)新来患者数・再来患者数・紹介割合
新来患者数 | 248人 |
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再来患者数 | 1,984人 |
紹介率 | 60.8% |
2)入院患者数 (病名別)
病名 | 患者数 |
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頭部外傷 | 11 |
脳脊髄腫瘍 | 20 |
二分脊椎 | 16 |
水頭症 | 7 |
脳先天性疾患 | 2 |
機能(てんかん・痙直など) | 3 |
血管(もやもや病・AVMなど) | 17 |
その他 | 7 |
合計 | 83 |
3−1)手術症例病名別件数
病名 | 症例数 |
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脳脊髄腫瘍 | 22 |
頭蓋・脳先天性疾患 | 5 |
二分脊椎 | 13 |
水頭症 | 11 |
もやもや病等バイパス手術 | 8 |
脳動静脈奇形等血管奇形 | 6 |
てんかん | 5 |
頭部外傷 | 4 |
感染 | 3 |
その他 | 7 |
合計 | 84 |
3−2)手術術式別件数・術後合併症件数
病名 | 症例数 | 合併症件数 | 再手術症例数 |
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開頭腫瘍摘出術 | 12 | 0 | 0 |
二分脊椎手術(係留解除術) | 11 | 0 | 0 |
脳室腹腔シャント術 | 5 | 0 | 0 |
血行再建術 | 6 | 0 | 0 |
MCDO | 2 | 0 | 0 |
軟性内視鏡手術 | 9 | 0 | 0 |
血管内治療 | 3 | 0 | 0 |
その他 | 36 | 0 | 0 |
合計 | 84 | 0 | 0 |
4)化学療法症例病名別・数
病名 | 症例数 |
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毛様細胞性星細胞腫 | 1 |
橋神経膠腫 | 1 |
脊髄神経膠腫 | 1 |
上衣腫 | 2 |
悪性星芽腫 | 1 |
松果体胚腫 | 1 |
髄芽腫 | 2 |
(小児科転科で施行したものも含む)
5)放射線療法症例・数
病名 | 症例数 |
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髄芽腫 | 1 |
松果体胚腫 | 1 |
橋神経膠腫 | 1 |
視床神経膠腫 | 1 |
ラブドイド髄膜腫 | 1 |
6)その他の療法(免疫療法)症例・数
なし
7)悪性腫瘍の疾患別・臨床進行期別治療成績
橋神経膠腫 | 平均生存期間9.7ヶ月 |
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髄芽腫 | 5年生存率 83% |
8)死亡症例・死因・剖検数・剖検率
死亡症例 | 脳腫瘍2例(橋神経膠腫1例、上衣腫1例いずれも在宅で死亡) |
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剖検数 | 0例 |
剖検率 | 0% |
9)主な処置・検査
特になし
10)カンファランス症例
二分脊椎カンファレンス
第一水曜日(祝日は休み)
1月5日 | 症例検討会 |
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2月2日 | 症例検討会 |
3月2日 | 症例検討会 |
4月6日 | 症例検討会 |
6月1日 | 症例検討会 |
7月6日 | 症例検討会 |
9月7日 | 症例検討会 第39回二分脊椎研究会報告会 |
10月5日 | 症例検討会 |
11月2日 | 症例検討会 |
12月11日 | 症例検討会 |
その他は脳神経外科と同様に行っている。
小児緩和ケアチームカンファレンス(隔週火曜日)
虐待についてのカンファレンス:適宜開催
11)キャンサーボード
小児はキャンサーボード対象外
子ども医療センター内で対象症例毎に検討(画像診断部・放射線治療部・小児科等と)
4.2023年の目標・事業計画等
- JCCG脳腫瘍グループとしての共同研究の継続
- 頭蓋変形矯正ヘルメットの臨床研究
- 新規頭蓋変形矯正ヘルメットの開発